最新記事

映画

『ジェミニマン』の老若ウィル・スミス対決は超高画質でも空回り

No Number of Will Smiths Can Save It

2019年10月26日(土)15時00分
サム・アダムズ

フルCGで制作された23歳のスミス(手前)と現在のスミス(右奥)が対決するが ©2019 PARAMOUNT PICTURES. ALL RIGHTS RESERVED.

<今よりはるかに若い自分と戦うという設定は斬新だが、4K・3D撮影でかえってインチキっぽく見えてしまう>

もし若い頃の自分に会えたら、どんな忠告をするだろう? 逆に年を取った自分が目の前に現れたら、彼の忠告に耳を傾けるだろうか? 映画『ジェミニマン』が私たちに投げ掛ける問いは、まさにそれだ。

この手のストーリーは、タイムトラベルものになりがちだ。しかし、アン・リー監督の手に掛かるとひと味違ってくる。

登場するのは、未来の自分や過去の自分ではない。後悔や疑念だらけの中年男と、彼の若いクローンだ。中年男のほうは、伝説の暗殺者ヘンリー・ブローガン。若いクローンは、ヘンリーを殺すため秘密裏に育てられた23歳の「ジュニア」。どちらもウィル・スミスが演じている。

リーは主人公のヘンリーの配役の際に、いま50代の俳優で、若い頃にアクションスターの経験あり、という条件を付けた。それを満たすのは2人しかいなかった。スミスとトム・クルーズだ(リーによれば「トムは忙しかった」らしい)。

撮影には、スミスの若い頃の顔を再現するデジタルアニメーション技術のほかに、毎秒120フレームの高フレームレート(HFR)撮影や、最新の4K解像度の3D撮影技術も使われた。

アメリカ国内にはこの「120フレーム・4K・3D」を再現できる映画館がなく、筆者が見たときも最高の条件で上映されてはいなかった。しかし映像はこの上なく鮮明で、リーのこだわりは十分に伝わってきた。

この撮影技法を導入したのは失敗だったと判断するにも十分だった。鮮明に撮影されたウィル・スミスは、何をどう演じてもウィル・スミス自身にしか見えない。映画を見ているというよりは、メイキング映像を見ているようなのだ。

未来の監督が忠告すべき

物語は国防情報局の潜入捜査官や、軍の請負業者から悪の道に進んだクレー・ベリス(クライブ・オーウェン)らを巻き込んで進んでいく。しかし画質がいいものだから、ストーリーの展開よりも、つい俳優の顔のしわやソーダ缶の水滴に関心が向いてしまう。

例えば環境問題を扱ったドキュメンタリー映画のように彼らを取り巻くものが本当のテーマだったら、鮮明な映像は大正解だろう。しかしあくまで物語重視の本作では、意味ありげな言葉を交わす俳優たちが大写しになればなるほど、インチキっぽく見えてしまう。55歳のオーウェンが23歳のスミスと戦うシーンも通常の毎秒24フレームなら受け入れられるが、120フレームだとどこかばかげて見える。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

首相と日銀総裁会談、植田氏「物価2%に着地するよう

ビジネス

日経平均は3日続落、リスクオフで1620円安 今年

ワールド

訪日客17%増の389万人、10月の最多を大幅更新

ビジネス

クレディ・アグリコル、28年の純利益目標設定 市場
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影風景がSNSで話題に、「再現度が高すぎる」とファン興奮
  • 3
    悪化する日中関係 悪いのは高市首相か、それとも中国か
  • 4
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 7
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 8
    山本由伸が変えた「常識」──メジャーを揺るがせた235…
  • 9
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 10
    マイケル・J・フォックスが新著で初めて語る、40年目…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 7
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 8
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 9
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 10
    ヒトの脳に似た構造を持つ「全身が脳」の海洋生物...…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中