最新記事

映画

映画『ライオン・キング』は超リアルだが「不気味の谷」を思わせる

A Dazzling Safari in the Uncanny Valley

2019年8月9日(金)18時05分
デーナ・スティーブンズ

magc190808_LionKing3.jpg

シンバはイボイノシシとミーアキャットのコンビに助けられて成長する ©2019 DISNEY ENTERPRISES, INC. ALL RIGHTS RESERVED

さて、『ライオン・キング』の世界はプライドランドと呼ばれる王国。かつては平和だったが、王様ムファサが弟のスカーに殺され、王位を奪われてからは荒廃してしまう。

主要なライオンの「声」を黒人キャストが担当した今回のプライドランドは、いわば映画『ブラックパンサー』の舞台となったワカンダ国のミニチュア版。父殺しの汚名を着せられ、追放された息子が王座を奪い返す物語は、白人のマシュー・ブロデリックがシンバを演じたアニメ版よりも胸を打つ。それでも流浪の王子が故郷に戻って王座に復帰するという設定の古めかしさは否定できない。

ビヨンセのコンサートでは女性たちが世界を回す。ナラやシンバの母にも、悪いハイエナをやっつける見せ場はある。だが『ライオン・キング』の女性キャラは基本的に男に寄り添い、助けを求める役回りだ。

ファブロー監督はあえて強調しないが、この映画には意外な政治性もある。腐り切った暴君が国を乗っ取ると聞いて、昨今のニュースを思い浮かべないアメリカ人は少ないだろう。

ハイエナの群れを用心棒に雇って権力基盤を固めるスカーを見れば、強欲な側近に汚れ仕事を任せて独裁者を気取る某大統領を連想する。思えば、あの髪形もスカーのたてがみにそっくりだ。

アニメ版で、悪党スカーはディズニー映画には珍しいほど暴力的な死を遂げた。今回の超リアル版でも、あそこだけはしっかり描いてほしかった。シンバとナラが結ばれて世継ぎが生まれるのは、もちろんめでたい。けれど真のクライマックスは、手下に裏切られたスカーの惨めな最期だと、筆者は思う。

THE LION KING
『ライオン・キング』
監督/ジョン・ファブロー
声の出演/ドナルド・グローバー、ビヨンセ
日本公開は8月9日

<2019年8月13&20日号掲載>

【参考記事】『ライオン・キング』のパクリ疑惑が、実写版大ヒットで再燃中
【参考記事】世界最大級のネコ、体重320キロのアポロを見て単純に喜んではいけない

2019081320issue_cover200.jpg
※8月13&20日号(8月6日発売)は、「パックンのお笑い国際情勢入門」特集。お笑い芸人の政治的発言が問題視される日本。なぜダメなのか、不健全じゃないのか。ハーバード大卒のお笑い芸人、パックンがお笑い文化をマジメに研究! 日本人が知らなかった政治の見方をお届けします。目からウロコ、鼻からミルクの「危険人物図鑑」や、在日外国人4人による「世界のお笑い研究」座談会も。どうぞお楽しみください。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

中国人民銀、公開市場での国債売買を再開と総裁表明 

ビジネス

インド、国営銀行の外資出資上限を49%に引き上げへ

ビジネス

日米財務相、緊密な協調姿勢を確認 金融政策「話題に

ワールド

トランプ氏、28年の副大統領立候補を否定 「あざと
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
2025年10月28日号(10/21発売)

高齢者医療専門家の和田秀樹医師が説く――脳の健康を保ち、認知症を予防する日々の行動と心がけ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水の支配」の日本で起こっていること
  • 3
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した国は?
  • 4
    庭掃除の直後の「信じられない光景」に、家主は大シ…
  • 5
    「平均47秒」ヒトの集中力は過去20年で半減以下にな…
  • 6
    「信じられない...」レストランで泣いている女性の元…
  • 7
    メーガン妃の「お尻」に手を伸ばすヘンリー王子、注…
  • 8
    1700年続く発酵の知恵...秋バテに効く「あの飲み物」…
  • 9
    シンガポール、南シナ海の防衛強化へ自国建造の多任…
  • 10
    【テイラー・スウィフト】薄着なのに...黒タンクトッ…
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 3
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 4
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した…
  • 5
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...…
  • 6
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 7
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水…
  • 8
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 9
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 10
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 9
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中