最新記事

ドキュメンタリー

スペインで完売続出したドキュメンタリーが暴く歴史

Breaking the Silence

2019年1月7日(月)11時40分
ロバート・バハー、アルムデナ・カラセド(『他者の沈黙』共同監督)

独裁者フランコが埋葬されたマドリード郊外の「戦没者の谷」 SERGIO PEREZ-REUTERS

<独裁体制下の被害者に光を当てる『他者の沈黙』。スペインの若者たちがフランコ時代の人道犯罪に向き合い始めた>

スペインの首都マドリードの映画館で2018年11 月末、10代の若者たちがこれまで聞いたことのない自国の話に夢中で耳を傾けた。出産直後に母親から引き離された「盗まれた子供たち」。拷問の末に処刑され、集団墓地に葬られた無実の者たち。正義と認知を求めて闘い続ける人々......。

若者たちは私たちの映画『他者の沈黙(The Silence of Others)』を見に来ていた。このドキュメンタリー作品は、フランシスコ・フランコ将軍の36年に及ぶ独裁体制下で生き延び、スペイン内戦からフランコが死去した1975年までの恐怖支配に対し、正義の実現を求める彼らの苦闘を描いている。

若者は、この時代のことを学校でほとんど習わない。独裁者フランコの死後、1977年にスペイン政府は政治犯を釈放したが、同時に独裁体制による無数の犯罪の追及を許さなかった。これが後に「沈黙の協定」と呼ばれるようになった一連の措置だ。

背景には「過去を忘れることが民主的な未来を築く助けとなり、古い傷は自然に癒える」という配慮があった。しかし、暴力を忘れることにしただけでは平和は生まれない。何千人もの生存者にとって、愛する者が集団墓地に眠っている限り、拷問をした加害者が自由の身である限り忘れることなど不可能だ。

スペインの過去との闘いは最近、新たな緊急性を帯びた。2018年6月に社会労働党のペドロ・サンチェスが首相に就任。 7月、マドリード郊外の慰霊施設「戦没者の谷」からフランコの遺体を排除すると宣言。過去をめぐる論争に火を付けたからだ。

mag190107movie-2.jpg

『他者の沈黙』共同監督のアルムデナ・カラセド(左)とロバート・バハー BRIAN DOWLING/GETTY IMAGES

残された時間は少ない

『他者の沈黙』では人道に対する罪を調査する、国境を超えた「普遍的司法権」の動きに注目。アルゼンチンのマリア・セルビニ判事が率いる国際法廷の動きを追い、何人かの生存者を取り上げている。「アカ」だとして母親を処刑されたマリア・マルティン。フランコ時代から80年代まで「問題がある」とされた家庭から多くの赤ん坊がさらわれた「盗まれた子供たち」事件によって、1981年にわが子と引き離されたマリア・ブエノ。

この作品を世界各地の映画祭に出品した私たちは、観客の反応に圧倒された。ベルリン国際映画祭のプレミア上映を含む多くの場所で、感動した観客は過去と向き合う正義を支持した。

スペインの反応も同様だった。『他者の沈黙』の公開前に実施された世論調査の結果は、私たちの期待を大きく上回った。回答者の実に3分の2が、フランコ時代の人道犯罪に関与した者に法の裁きを受けさせる法改正が必要だと答えた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ウクライナ、いずれロシアとの交渉必要 「立場は日々

ビジネス

米経済「まちまち」、インフレ高すぎ 雇用に圧力=ミ

ワールド

EU通商担当、デミニミスの前倒し撤廃を提案 中国格

ビジネス

米NEC委員長、住宅価格対策を検討 政府閉鎖でGD
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前に、男性が取った「まさかの行動」にSNS爆笑
  • 4
    中国が進める「巨大ダム計画」の矛盾...グリーンでも…
  • 5
    「水爆弾」の恐怖...規模は「三峡ダムの3倍」、中国…
  • 6
    ファン激怒...『スター・ウォーズ』人気キャラの続編…
  • 7
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 8
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 9
    「ゴミみたいな感触...」タイタニック博物館で「ある…
  • 10
    【クイズ】韓国でGoogleマップが機能しない「意外な…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 7
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 8
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 9
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 10
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中