最新記事

音楽

ビートルズゆかりの地を巡る、日本初の「使える」旅行記を作った

2018年9月7日(金)16時55分
藤本国彦

『ビートルズはここで生まれた 聖地巡礼 from London to Liverpool』より

<ビートルズの本の中でも、ありそうで案外ないのが、ツアー・ガイド本。ビートルズを知り尽くす著者が、実際のツアーの珍道中を丸ごと収め、紀行文とゆかりの地の解説、豊富な写真と貴重な地図を盛り込んだ『ビートルズはここで生まれた』

ビートルズの本は、他のどんな音楽書よりも、どうやら売れるらしい。音楽雑誌の編集者を経て2015年にフリーになり、分冊『ビートルズ・ストーリー』シリーズ(2015年より、音楽出版社)ほか毎年8冊ほど手掛け、毎月4本ほどのイベントを行ない、映画の字幕監修も不定期に担当しているが、そのほとんどすべてがビートルズがらみである。

と、「ビートルズ仕事だけ」でメシを食わせてもらっている身としては、こうした状況はありがたいかぎりだ。とはいえ、ビートルズのどんな本でも売れるわけではない。日本に限っても、半世紀以上、手を変え品を変え、ありとあらゆるタイプの本が登場し、ほぼ出尽くした感もある。

そうしたなかで、ありそうで案外ないのが、ツアー・ガイド本だった。『ビートルズを歩こう!』(マーク・ルイソン他著、プロデュース・センター出版局)のような洋書を翻訳した本もあるにはあるが、ロンドン限定で、しかもロンドンに住んでいる人なら「ああ、あそこか」とわりとすぐに思い浮かぶような細かい地図が入った、いわば「海外のビートルズ・ファン」向けの内容である。ビートルズの生まれ故郷リヴァプールのゆかりの地を解説した本は、日本では皆無と言っていい。

ただのガイド本でも味気ないし、旅行記だけでも独り善がりになりかねないので、「使える本」にはしたい。『ビートルズはここで生まれた 聖地巡礼 from London to Liverpool』(CCCメディアハウス)を作るにあたって考えたのは、そんなことだった。その結果、紀行文とゆかりの地の解説が合わさった、ありそうでない1冊となった。特に、リヴァプールの観光ガイド的な本は、個人の旅日記のようなものを除いてはたぶん、本書が初めて出たものではないかと思う。

ビートルズがらみの仕事のひとつとして、月に一度、名古屋で「ビートルズ講座」を開催しているが、受講している「現役世代」のファンの方の一言――「冥土の土産にイギリスに連れて行ってほしい」――が、「ゆかりの地ツアー」の大きなきっかけとなった。まさに「縁は異なもの味なもの」である。こうして、2017年10月15日から22日までの8日間、総勢20名(平均年齢60代)が名古屋からはるばるイギリスまで向かったのだった。

その初日、10月15日の記述はこんなふうに始まる。


 今回のツアーは合計8日間だが、最終日は午前中に名古屋着となるため、前後計3日はほぼ行き帰りの時間に費やされる。正味は5日。ロンドンとリヴァプールがまるまる2日楽しめるのに加えて、ロンドンからリヴァプールへは、貸切バスでジョージ・ハリスンの豪邸「フライアー・パーク」経由で向かう。これが、他の同趣旨のツアーにはない目玉でもある。年配の方が多いので、なるべく歩く距離を減らそうという井上さんの配慮だったが、ふたを開けてみたら、特に2日目はめまぐるしく動きまわる"「ハード・デイズ」な日"となった。(24ページより)

本書は、喜怒哀楽に満ちあふれたそのツアーの珍道中を1冊丸ごと、豊富な写真とエピソードとともに収めたものだ。もちろん、ビートルズのアルバム・ジャケットで有名なアビイ・ロードの横断歩道を渡っている写真を撮ってもらったりもしたが、その時は、まさかこうして1冊の本になるとは、しかもその写真(本記事冒頭の写真)が表紙になるなんて夢にも思わなかった。これもまた「思わぬ縁」なのだろう。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

ハリコフ攻撃、緩衝地帯の設定が目的 制圧計画せずと

ワールド

中国デジタル人民元、香港の商店でも使用可能に

ワールド

香港GDP、第1四半期は2.7%増 観光やイベント

ワールド

西側諸国、イスラエルに書簡 ガザでの国際法順守求め
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 3

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、さらに深まる

  • 4

    羽田空港衝突事故で「日航の奇跡」を可能にした、奇…

  • 5

    「円安を憂う声」は早晩消えていく

  • 6

    老化した脳、わずか半年の有酸素運動で若返る=「脳…

  • 7

    アメリカはどうでもよい...弾薬の供与停止も「進撃の…

  • 8

    共同親権法制を実施するうえでの2つの留意点

  • 9

    日鉄のUSスチール買収、米が承認の可能性「ゼロ」─…

  • 10

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中