最新記事

インタビュー

地方都市のスナックから「日本文明論」が生まれる理由

2017年8月7日(月)18時56分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

brazzo-iStock.

<首都大学東京の谷口功一教授が中心となり、学者たちが大真面目にスナックを研究して生まれた『スナック研究序説』。なぜ夜の街、酒場を研究するのか?>

日本における移民・難民を法哲学の視点から研究し、「日本人」の再定義を説く首都大学東京の谷口功一教授。このたび『スナック研究序説――日本の夜の公共圏』(白水社)を編者としてまとめた。なぜ法哲学者が夜の街、酒場を研究するのか? その意味について、谷口教授に聞いた。

スナックと法哲学の関係

私が専門にしている法哲学は、「法とは何か?」という基礎的かつ根本的な問題を考える領域と、もうひとつ、「正義とは何か?」を現実との関係の中で考える領域の2つから成り立っています。

私は長年、この後者の中に含まれる問題のひとつとして「公共性とは何か?」ということについて研究してきました。『これからの「正義」の話をしよう』(早川書房)で日本でも有名になった、ハーバード大学のマイケル・サンデル教授の研究分野と親戚にあたるといえば、わかりやすいかもしれません。

この「公共性」の研究に関連して、ニュータウン(郊外)をテーマにしているため、「郊外の多文化主義」(編集部注:論壇誌『アステイオン83』所収の論考、当サイトにも転載)で言及した群馬県大泉町のような地方都市にはよく調査に行きます。

日本は移民を受け入れるべきか否かという議論が高まっています。しかし、地方都市にいれば誰でも知っていることですが、工場で働く人や農業に従事する人など外国人労働者の多くがすでに日本に定住しています。

彼らについてリサーチするに際しては、市役所や地域の多文化共生センターのような施設へももちろん聞き取りに行きますが、そこで得られるのは「オフィシャル」な情報のみです。

これは新聞記者や雑誌記者がよく使う手ですが、彼らを取り巻く生活状況をより詳しく知るには、地元のスナックに行って常連に話を聞くのが一番です。そもそもスナックは地域住民が話し相手を求めにくる場所なので、外から来た「一見さん」であってもある程度その町について勉強していることを示せば、快く話を聞かせてくれる人が集っているからです。

ですから、もちろんスナックで飲むというのも大好きですが(笑)、調査をしに行く場所でもあるのです。

そもそも「スナック」とは何か

語源は「スナック・バー(snack bar)」ですが、サンドウィッチやフライドポテト、ソフトドリンクなど、海外では軽食を出す店を指し、必ずしもアルコールを出す店ではありません。

ですから、海外の「スナック・バー」と日本の「スナック」はまったく別のものと考えるべきです。むしろ1964年の東京オリンピック開催に際しての法規制によって生まれた、日本独自の業態です。

詳しくは本書の伊藤正次、亀井源太郎、宍戸常寿の各論文を読んでほしいのですが、キャバクラやクラブは「風俗営業」にあたり、スナックの多くは「深夜酒類飲食店営業」になります。ほとんどのスナックは「風俗営業」ではないため、客の隣に座って接客ができません。ですから、ママ(もしくはマスター)と客がカウンターで隔てられているのです。

【参考記事】ゲイバーは「いかがわしい、性的な空間」ではない

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

アングル:トランプ氏なら強制送還急拡大か、AI技術

ビジネス

アングル:ノンアル市場で「金メダル」、コロナビール

ビジネス

為替に関する既存のコミットメントを再確認=G20で

ビジネス

米国株式市場=上昇、大型ハイテク株に買い戻し 利下
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ暗殺未遂
特集:トランプ暗殺未遂
2024年7月30日号(7/23発売)

前アメリカ大統領をかすめた銃弾が11月の大統領選挙と次の世界秩序に与えた衝撃

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「習慣化の鬼」の朝日新聞記者が独学を続けられる理由【勉強法】
  • 2
    BTS・BLACKPINK不在でK-POPは冬の時代へ? アルバム販売が失速、株価半落の大手事務所も
  • 3
    【夏休み】お金を使わないのに、時間をつぶせる! 子どもの楽しい遊びアイデア5選
  • 4
    キャサリン妃の「目が泳ぐ」...ジル・バイデン大統領…
  • 5
    地球上の点で発生したCO2が、束になり成長して気象に…
  • 6
    カマラ・ハリスがトランプにとって手ごわい敵である5…
  • 7
    トランプ再選で円高は進むか?
  • 8
    拡散中のハリス副大統領「ぎこちないスピーチ映像」…
  • 9
    中国の「オーバーツーリズム」は桁違い...「万里の長…
  • 10
    「轟く爆音」と立ち上る黒煙...ロシア大規模製油所に…
  • 1
    正式指名されたトランプでも...カメラが捉えた妻メラニアにキス「避けられる」瞬間 直前には手を取り合う姿も
  • 2
    すぐ消えると思ってた...「遊び」で子供にタトゥーを入れてしまった母親の後悔 「息子は毎晩お風呂で...」
  • 3
    月に置き去りにされた数千匹の最強生物「クマムシ」、今も生きている可能性
  • 4
    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…
  • 5
    「習慣化の鬼」の朝日新聞記者が独学を続けられる理…
  • 6
    【夏休み】お金を使わないのに、時間をつぶせる! 子…
  • 7
    ブータン国王一家のモンゴル休暇が「私服姿で珍しい…
  • 8
    「失った戦車は3000台超」ロシアの戦車枯渇、旧ソ連…
  • 9
    「宇宙で最もひどい場所」はここ
  • 10
    ウクライナ南部ヘルソン、「ロシア軍陣地」を襲った…
  • 1
    中国を捨てる富裕層が世界一で過去最多、3位はインド、意外な2位は?
  • 2
    ウクライナ南部ヘルソン、「ロシア軍陣地」を襲った猛烈な「森林火災」の炎...逃げ惑う兵士たちの映像
  • 3
    ウクライナ水上ドローン、ロシア国内の「黒海艦隊」基地に突撃...猛烈な「迎撃」受ける緊迫「海戦」映像
  • 4
    ブータン国王一家のモンゴル休暇が「私服姿で珍しい…
  • 5
    正式指名されたトランプでも...カメラが捉えた妻メラ…
  • 6
    韓国が「佐渡の金山」の世界遺産登録に騒がない訳
  • 7
    すぐ消えると思ってた...「遊び」で子供にタトゥーを…
  • 8
    月に置き去りにされた数千匹の最強生物「クマムシ」…
  • 9
    メーガン妃が「王妃」として描かれる...波紋を呼ぶ「…
  • 10
    「どちらが王妃?」...カミラ王妃の妹が「そっくり過…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中