最新記事

BOOKS

「ブサイク」は救いようがない、と経済学者は言う(たぶん愛をもって)

2015年7月10日(金)18時30分
印南敦史(書評家、ライター)

ブサイクな人にもだいたいはいいところがちゃんとあって、それを手塩にかけて育てれば、ブサイクなせいで背負ったハンデを乗り越えるのに役立つだろう。(中略)ブサイクだからって心の底からくじけてしまわなくてもいい。ブサイクなみなさんが背負った重荷はそこまでどうしようもないわけじゃあないのです。(230ページより)


「いや、充分にどうしようもないだろそれ!」とツッコミを入れたくなるほど救いがない。200ページ以上を割いてブサイクのデメリットを羅列した末、結論がこれだとズッコケそうにもなる。しかし、それもまた著者の意図するところなのではないだろうか?

 本を閉じてから、強烈な脱力感のなかでそうも感じた。つまり、きわめて経済学的なアプローチを貫いている一方、本書はギャグとしても読めるということだ。的外れだといわれようがそうとしか思えないし、そうでないと話がまとまらない。

 そして、根底にあるのはきっと、ブサイクに対する愛だ(と思いたい)。そのアプローチは、ポップな曲調に乗せて"Short People got no reason to live(チビには生きる意味がない)"と歌われるランディ・ニューマンの"Short People"に通じるものがある。

 それにしても、ここまで極端なアプローチをされると、やはり気になるのは著者の風貌だ。これでもしも本人が非の打ちどころがないイケメンだったりしたら、本書は壮大な嫌味になってしまうからだ。そこで読了後に迷わず検索してみたのだが、画面に現れたのはいかにも貧弱な老人であった。なんとかギャグとしてのオチができてよかった。

 なお、本書の大きな魅力は翻訳の優秀さである。「ブサイク」とか「デブ」などトゲのあることばがポンポン飛び出すにもかかわらず違和感を与えず、しかもすらっと読ませてしまう理由の大半は、そのセンスのよさにあるといってもいい。


『美貌格差――生まれつき不平等の経済学』
 ダニエル・S・ハマーメッシュ 著
 望月 衛 翻訳


今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

三井物産、4─6月期の純利益3割減 前年の資産売却

ビジネス

伊藤忠、4─6月期の純利益37%増 通期見通しは据

ワールド

トランプ氏、対日関税15%の大統領令 7日から69

ビジネス

商船三井、26年3月期予想を上方修正 純利益5割減
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ関税15%の衝撃
特集:トランプ関税15%の衝撃
2025年8月 5日号(7/29発売)

例外的に低い日本への税率は同盟国への配慮か、ディールの罠か

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人の児童買春ツアーに外務省が異例の警告
  • 2
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 3
    いま玄関に「最悪の来訪者」が...ドアベルカメラから送られてきた「悪夢の光景」に女性戦慄 「這いずり回る姿に衝撃...」
  • 4
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 5
    枕元に響く「不気味な咀嚼音...」飛び起きた女性が目…
  • 6
    一帯に轟く爆発音...空を横切り、ロシア重要施設に突…
  • 7
    【クイズ】1位は韓国...世界で2番目に「出生率が低い…
  • 8
    【クイズ】2010~20年にかけて、キリスト教徒が「多…
  • 9
    カムチャツカも東日本もスマトラ島沖も──史上最大級…
  • 10
    街中に濁流がなだれ込む...30人以上の死者を出した中…
  • 1
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 2
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの習慣で脳が目覚める「セロ活」生活のすすめ
  • 3
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜つくられる
  • 4
    いきなり目の前にヒグマが現れたら、何をすべき? 経…
  • 5
    航空機パイロットはなぜ乗員乗客を道連れに「無理心…
  • 6
    中国が強行する「人類史上最大」ダム建設...生態系や…
  • 7
    日本人の児童買春ツアーに外務省が異例の警告
  • 8
    いま玄関に「最悪の来訪者」が...ドアベルカメラから…
  • 9
    【クイズ】1位は韓国...世界で2番目に「出生率が低い…
  • 10
    枕元に響く「不気味な咀嚼音...」飛び起きた女性が目…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 3
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 4
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 5
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの…
  • 6
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜…
  • 7
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは…
  • 8
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップ…
  • 9
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人…
  • 10
    いきなり目の前にヒグマが現れたら、何をすべき? 経…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中