最新記事

注目作

韓流戦争映画はここまで来た

注目作 朝鮮戦争を描いた『高地戦』は「韓国映画ルネサンス」の総決算とも言える作品

2012年3月16日(金)15時56分
グレイディー・ヘンドリックス(ニューヨーク・アジア映画祭共同創設者)

予期せぬ展開 『高地戦』はハリウッドの戦争映画のような「感動巨編」ではない (c)Showbox/Mediaplex.

 20世紀は朝鮮半島にとって、まったく暗い時代だった。

 まず日本に占領され、次に連合軍に占領された。戦争によって朝鮮半島は南北に引き裂かれ、北は独裁体制となった。

 南にはクーデターによって軍事政権が生まれ、戒厳令が長く続き、大統領が暗殺され、またクーデターが起き、また軍政が敷かれた。やっと民主化にたどり着いたのは1987年のことだった。

 だからアメリカでこの1月に公開された『高地戦(原題)』のように、朝鮮戦争をテーマにした映画が韓国で作られると、ハリウッドの戦争映画にありがちな豪華キャストをそろえた「感動巨編」ではなくなる。『高地戦』は、むしろうら哀しくてシニカルで、反権威主義的な作品だ。それでも韓国では、昨年夏の最大のヒット作となった(日本では今年公開予定)。

 軍事政権下の韓国で戦争映画に求められた役割は、国威発揚の1点だった。映画監督の李晩熙(イ・マニ)は1965年、共産主義に同調する描写をしたとして逮捕された。李を支持する発言をした兪賢穆(ユ・ヒョンモク)監督も、実験的映画にヌードシーンを6秒間入れたとして逮捕・投獄された。

 80年代に入ると映画への規制は緩和され始めたが、裁判所の判断によって政府が検閲委員会を廃止したのは95年のこと。以降、映画制作者たちは「政府公認」の歴史に挑むような作品を、復讐心を込めて作り始めた。

 まずワンツーパンチとなったのが、99年の『シュリ』と00年の『JSA』だった。どちらも強烈なヒット作となり、韓国映画界に現代のルネサンスをもたらした。

 カン・ジェギュ監督の『シュリ』は、国内に潜入した北朝鮮工作員を捜す韓国諜報部員を描き、パク・チャヌク監督の『JSA』は38度線の軍事境界線で起きた殺人事件をテーマにしている。2つの作品は、まったく新しい視点を共有していた。北でも南でも、そこに住むのは同じ人間であり、南北の争いは政治家たちが引き起こしたというものである。60~70年代にこんな映画を作っていたら、間違いなく牢獄行きだった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

FIFAがトランプ氏に「平和賞」、紛争解決の主張に

ワールド

EUとG7、ロ産原油の海上輸送禁止を検討 価格上限

ワールド

欧州「文明消滅の危機」、 EUは反民主的 トランプ

ワールド

米中が閣僚級電話会談、貿易戦争緩和への取り組み協議
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」が追いつかなくなっている状態とは?
  • 2
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い国」はどこ?
  • 3
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 4
    「ボタン閉めろ...」元モデルの「密着レギンス×前開…
  • 5
    左手にゴルフクラブを握ったまま、茂みに向かって...…
  • 6
    主食は「放射能」...チェルノブイリ原発事故現場の立…
  • 7
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 8
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 9
    『羅生門』『七人の侍』『用心棒』――黒澤明はどれだ…
  • 10
    高市首相「台湾有事」発言の重大さを分かってほしい
  • 1
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 2
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 3
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 4
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 5
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 6
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 7
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 8
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 9
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 10
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中