最新記事

実話

映画になったバイアグラ営業マンの告白

映画『ラブ・アンド・アザー・ドラッグス』の原作者ジェイミー・レイディが、バイアグラの売り込み方から効果まで赤裸々に語る

2010年11月26日(金)17時48分

話題作 映画『ラブ・アンド・アザー・ドラッグス』では、若手実力派ジェイク・ギレンホール(左)がジェイミーに扮する

 20代でもバイアグラを使う男性はいるだろうが、ジェイミー・レイディにとっては「仕事の一環」だった。90年代に米製薬大手のファイザーに入社し、バイアグラのセールスマンとして働き始めた。

 その後、自分の体験を綴った著書『涙と笑いの奮闘記──全米セールスNo.1に輝いた"バイアグラ"セールスマン』(邦訳・アスペクト)を出版。この秋には、ジェイク・ギレンホール主演の映画『ラブ・アンド・アザー・ドラッグス』(11月24日全米公開、日本公開未定)にもなった。「性の特効薬」をめぐる仰天エピソードから映画への思いまで、本誌エンターテイメント担当ラミン・セトゥデがレイディに話を聞いた。

──どんな経緯であの仕事に就いたのか。

 大学時代はROTC(予備役将校訓練部)に所属していて、3年間は実際の任務に就いていた。ファイザーは一度面接を受けただけで、すぐに採用が決まったんだ。ファイザーは3つの「M」に弱い。Military(軍隊)、Minorities(マイノリティー)、そしてMormons(モルモン教徒)。
 
──モルモン教徒?

 外国で宗教を売り込めるなら、どんなものだって売りさばけると思ってるんだろうな。

──ファイザーは発売当初、バイアグラをどうみていたのか。

 彼らはそれほど期待をかけていなかった。勃起不全(ED)と診断された一部の男性にだけ、爆発的に売れると考えていた。米食品医薬品局(FDA)が販売対象として認めたED患者以外に売ることについては、大きな不安を抱いていた。

──女性版バイアグラがうまく行かなかったのは?

 男性がバイアグラを使うと、効果は一目で分かる。でも女性の場合は、性的機能不全の定義を一つに絞り込むことができない。「オーガズムを感じたことがない」という人もいれば、「今回のオーガズムはたった2回だけ」という人もいる。科学者たちは(女性版バイアグラの開発は)「無謀だ!」と言っていた。

──ターゲットにした男性はどんな人たち?

 どんな人を狙うべきか、いつも言い聞かせてくれる泌尿器科医がいてね。彼が言うには、45歳の男性だと。45歳になると18歳の頃のようには行かなくなる。でも18の頃に戻りたい──。泌尿器科医は正しかった。バイアグラのCMに出ている男性を思い浮かべるといい。60歳くらいの男性は出ていないだろう? 

──彼らは自分の妻とセックスしたいのか。それとも愛人と?

 バイアグラをくれと医者に頼み込む男性の話はたくさん耳にした。妻とのセックスのためにそこまで必死になることはない──泌尿器科医はそう見抜くだろう。

 しかし、夫を連れて泌尿器科医に来る妻は大勢いるらしい。泌尿器科医が「今日はどうしてこちらに?」と聞くと、夫は「分かりません」と答える。そうすると妻が夫を肘でつつきながら、「バイアグラが欲しくて来ました。私たち、立て直さないとね」と言うんだ。ダジャレじゃないよ。バイアグラについて話すときは、どんな言葉も隠語っぽくなってしまう。

──あなた自身もバイアグラを使ったことはある?

 そりゃあるよ。自分で使ったこともない薬は売り込めないだろ? もちろんゾロフト(抗鬱剤)やダイフルカン(女性が感染するカンジダ膣炎の予防薬)を使ったことはないけど。バイアグラはテキーラをショットグラスで13杯くらい飲んだ夜には最高。パーティーなど娯楽目的の需要も、実はものすごく大きい。

 僕がサンフランシスコの近くで会議に出ていたとき、ある医師に麻薬性興奮剤のポッパー(亜硝酸アミル)と一緒にバイアグラを使ってもいいかと聞かれた。僕は「ノー!」と突っぱねたよ。ポッパーは同性愛者の間で大人気なんだ。ファイザーは、ヘロインやコカインとバイアグラの併用は奨励しない。違法ドラッグとの組み合わせを売り込んだりしない。

──バイアグラの副作用にはどんなものがあるのか。

 よくあるのは頭痛、顔のほてり、鬱血の3つだ。視覚異常として周囲が青や緑色に見えることもある。バイアグラ服用者の約3%が体験している。もし僕が抗ヒスタミン剤のセールスマンだったら、医師に何か言われるだろう。でもセックスが目的のバイアグラでは問題にならなかった。頭がぶっ飛んでるだけだと思われたんだろう。

──バイアグラを服用すると勃起が4時間続くこともあると聞いたけど。

 私の周囲の男性はみんな、「4時間も勃起し続けたら知り合い全員に電話して自慢する」と言っていた。でも実はとても危険なことなんだ。

──どうして?

 筋肉があんな風に硬直すると、取り返しのつかない障害をもたらす恐れがある。病院に行って、勃起したペニスを萎えさせてもらわなければならない。

──何だか痛そうだね。

そりゃ痛いだろうさ。

──映画『ラブ・アンド・アザー・ドラッグス』は原作に忠実か。

 私の本が映画の出発点になっているのは確かだ。映画は本の愉快な空気をうまくつかんでいると思う。ジェイクが演じた主人公は映画の中で成長した。私は最後まで大バカ者のままだったけどね。

──申し訳ないが、原作はまだ読んでいないんだ。ラブストーリーの要素はあるの?

 ないよ。読んでなくても大丈夫。僕の母親だってまだ読み終わってないからね。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

日産が追浜工場の生産終了へ、湘南への委託も 今後の

ビジネス

リオ・ティント、鉄鉱石部門トップのトロット氏がCE

ワールド

トランプ氏「英は米のために戦うが、EUは疑問」 通

ワールド

米大統領が兵器提供でのモスクワ攻撃言及、4日のウク
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:AIの6原則
特集:AIの6原則
2025年7月22日号(7/15発売)

加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」。仕事・学習で最適化する6つのルールとは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    真っ赤に染まった夜空...ロシア軍の「ドローン700機」に襲撃されたキーウ、大爆発の瞬間を捉えた「衝撃映像」
  • 2
    「史上最も高価な昼寝」ウィンブルドン屈指の熱戦中にまさかの居眠り...その姿がばっちり撮られた大物セレブとは?
  • 3
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長だけ追い求め「失われた数百年」到来か?
  • 4
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 5
    エリザベス女王が「うまくいっていない」と心配して…
  • 6
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首…
  • 7
    【クイズ】次のうち、生物学的に「本当に存在する」…
  • 8
    「このお菓子、子どもに本当に大丈夫?」──食品添加…
  • 9
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップ…
  • 10
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首」に予想外のものが...救出劇が話題
  • 4
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 5
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 8
    エリザベス女王が「うまくいっていない」と心配して…
  • 9
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 10
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中