最新記事

映画

泣けて笑える『オーケストラ!』の人生讃歌

2010年4月16日(金)14時45分
大橋 希

----バイオリンのソリストを演じたメラニー・ロランがよかった。キャスティングはあなたが?

 そう。プロデューサーが彼女を知っていたこともあって一緒にお茶をしたんだけど、すぐに意気投合できた。才能豊かで、幅広い役柄を演じられる役者だと思う。

 見た目は非常にクールだし、内面的にもすぐに打ち解けるタイプではない。でもそのよそよそしさがかえって、少しずつ湧き出てくる感情を表現するにはぴったりではないかと直観したんだ。

 彼女は4カ月間、毎日レッスンを受けてバイオリンを身に付けた。そのプロ意識は非常に高く評価できる。

 ラストの演奏場面はリアリティを持たせるために、バイオリンを弾く右手の80%はメラニーにやってもらった。左手は別の人の演奏で、それを編集でつないだ。左手を4カ月で習得しきるのは不可能だからね。でも肩や頭の動きといったすべてのディテールに至るまで、彼女はプロのバイオリニストを完璧に演じきったと思う。

----そのラストシーンは感動的だが、少し無理があるような気もした。

 私は心から奇跡を信じているんだ。人間が生まれてくること自体が奇跡で、人生は不可能からスタートしている。私自身、専制君主下のルーマニアを逃れて、奇跡的にパリに渡ることができた。あの国にとどまっていたら殺されていたか、牢獄で暮らしていたかもしれない。

----なるほど......。相手を説得するのが得意?

 いやいや、誰かを説得したり、自分の考えを押し付けることに興味はないよ。違う考え方をもった人々が共存し、対話していくのが民主主義の素晴らしさだからね。

----亡命の経験以外に、親がジャーナリストだったことも作品作りに影響している?

 父はジャーナリストで、母は若者向けの本の編集者だったので、小さいときから本に囲まれて育った。人間の精神について、時事的問題について、家族や教育の問題について考えさせられるような環境にいつも置かれていた。自分の視点を大事にしながら、世の中と対話して生きていく力を両親が与えてくれた。

----フランスではなくアメリカに渡っていたら、ハリウッド大作を撮っていただろうか。

 自分なりの視点のある、インディペンデント系作品を撮っていたと思う。自由を求めて亡命した身だから、他人に何かを強要されることは嫌いなんだ。

----次回作の予定は。

 構想は出来上がっていて、シナリオも描き始めている。アラビアの小さな村に生きるアラビア女性の条件といったテーマで、アラビア語で撮るつもりだよ。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

アングル:中国地方都市、財政ひっ迫で住宅購入補助金

ワールド

岸田首相、「グローバルサウスと連携」 外遊の成果強

ビジネス

アングル:閑古鳥鳴く香港の商店、観光客減と本土への

ビジネス

アングル:中国減速、高級大手は内製化 岐路に立つイ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが...... 今も厳しい差別、雇用許可制20年目の韓国

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    翼が生えた「天使」のような形に、トゲだらけの体表...奇妙な姿の超希少カスザメを発見、100年ぶり研究再開

  • 4

    こ、この顔は...コートニー・カーダシアンの息子、元…

  • 5

    ウクライナがモスクワの空港で「放火」工作を実行す…

  • 6

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    単独取材:岸田首相、本誌に語ったGDP「4位転落」日…

  • 9

    マフィアに狙われたオランダ王女が「スペイン極秘留…

  • 10

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 5

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 6

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 9

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 10

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中