最新記事

映画

00〜09年の忘れ難い映画ベスト10

2009年12月24日(木)15時03分
デービッド・アンセン(映画担当)

(7)『硫黄島からの手紙』(2006年)と『ミリオンダラー・ベイビー』(2004年)

 70歳を過ぎてむしろ活力が増したクリント・イーストウッド監督は、信念を曲げることなく本当に作りたい映画だけを製作しようと快進撃を続けている(いったいどんなビタミン剤を飲んでいるのだろう?)

 監督として波に乗ったのは03年の『ミスティック・リバー』以降だが、私にとっての最高傑作は、観客の心に強烈なパンチを浴びせるボクシング映画『ミリオンダラー・ベイビー』と、第二次大戦の過酷な戦場を日本人の視点から描いた『硫黄島からの手紙』だ。後者は偉大な反戦映画として記憶されることだろう。

 イーストウッドはハリウッドの伝統的な職人魂を21世紀にもちこんだが、ニュージーランド出身のピーター・ジャクソン監督とデジタル技術チームが生んだ驚愕の『ロード・オブ・ザ・リング』3部作も忘れられない。また、イギリス人監督のポール・グリーングラスは『ボーン・アルティメイタム』(07年)は、経験したことがないほど大量のアドレナリンが湧き上がるアクション大作。シリーズもののアクション映画の撮影と編集手法を根本的に変えた作品でもある。


(8)『ダーウィンの悪夢』(2004年)

 想像をはるかに超える衝撃的で刺激的なドキュメンタリー。ベルギーの若手監督フーベルト・ザウパーは、アフリカ東部タンザニアのビクトリア湖畔にビデオカメラを持ち込んだ。その湖では、半世紀前に放たれた巨大な肉食の外来魚ナイルパーチが周辺地域の環境と経済を一変させていた。

『ダーウィンの悪夢』は1匹の魚から始まり、グローバリゼーションがもたらす深刻な影響や先進国と途上国との不穏な関係へとテーマを拡大する。それでいて、全編を通して個人的な視点が失われることはない。

 ザウパーのインタビューは売春婦や政治家、漁師、ビジネスマン、そして旧ソ連のパイロットにまで及ぶ。彼らはナイルパーチをヨーロッパに空輸し、代りにアフリカ各地の内戦で使われる武器を運んでくる。

 ザウパーの作品は、マイケル・ムーア監督の『華氏911』(04年)やアル・ゴア元米副大統領の『不都合な真実』(06年)などの大ヒットドキュメンタリーに比べれば、わずかな観客しか動員できなかったかもしれない。それでも、この10年の優れたノンフィクション映画のトップにすえるべき作品だろう。


(9)『ハート・ロッカー』(2009年)
 
 今年、イラク戦争を描いた傑作を生み出したのは、女性監督のキャスリン・ビグロー。ジェレミー・レナー演じる爆発物処理班のスペシャリストは、勇気と狂気が紙一重の複雑な人物。戦争中毒で、危険にさらされてアドレナリンが噴出する状態に病みつきになっている。

 冒頭からエンディングまでずっとサスペンスで引き込むため、観客は自分も戦争中毒になったような錯覚に陥る。女性がアカデミー賞最優秀監督賞に選ばれたことは一度もない(ノミネートでさえめずらしい)が、いよいよそのときが来たようだ。

 
(10)『ボラット 栄光ナル国家カザフスタンのためのアメリカ文化学習』(2006年)

 カザフスタン人ジャーナリストがアメリカで騒動を巻き起こすこの異色のコメディーほど大笑いした映画はほかにない。あらゆる人を怒らせる『ボラット』は、リアリティ番組全盛の時代にぴったりだ。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

中国、レアアース輸出ライセンス合理化に取り組んでい

ビジネス

英中銀、プライベート市場のストレステスト開始へ

ワールド

ウクライナ南部に夜間攻撃、数万人が電力・暖房なしの

ビジネス

中国の主要国有銀、元上昇を緩やかにするためドル買い
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 2
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国」はどこ?
  • 3
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与し、名誉ある「キーパー」に任命された日本人
  • 4
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 5
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 6
    【クイズ】日本で2番目に「ホタテの漁獲量」が多い県…
  • 7
    高市首相「台湾有事」発言の重大さを分かってほしい
  • 8
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 9
    台湾に最も近い在日米軍嘉手納基地で滑走路の迅速復…
  • 10
    見えないと思った? ウィリアム皇太子夫妻、「車内の…
  • 1
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 4
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 5
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 6
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 7
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 8
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 9
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 10
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 4
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 5
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 8
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中