最新記事

トレンド

バンパイアに抱かれたがる女たち

テレビで映画で小説で吸血鬼が大人気。ブームの裏には女性の「好きにされたい」願望が

2009年11月11日(水)15時29分
ジョーン・レイモンド

11月28日公開の『ニュームーン/トワイライト・サーガ』。吸血鬼役のロバート・パティンソン(左)は前作『トワイライト~初恋~』で世界中の女性を虜にした Kimberley French ©2009 Summit Entertainment. All Rights Reserved.

 頭が良くて、ユーモアがあって、背が高い。ケンドラ・ポーター(27)が男性に求めるのは、この3つ。ぬくもりのある生身の人間であることは、言わずもがなの条件だった。

 だからポーターは、自分に驚いている。いま彼女が夢中な相手は、バイキングの血を引く1000歳の吸血鬼エリック。米ケーブルテレビ局HBOの人気ドラマ『トゥルー・ブラッド』に登場する超美形のキャラクターだ。

「これまでまったく興味がなかったのに、今は毎日が吸血鬼を中心に回ってる」と、ポーターは言う。「私にかみついてって、お願いしたいくらい。もちろん、いい感じの意味でね」

 吸血鬼はこれまで何世紀も、人々に不思議な魅力を振りまいてきた。でも、最近ホットな吸血鬼たちは今までとはちょっと違う。最大の魅力はセクシーなこと。そこに女性たちが参っている。

 何しろ広告業界がブームに便乗するほどだ。ジレットの広告では「死ぬほどセクシー」というコピーの横で、イケメン吸血鬼がきれいに剃った顔をなでている。マーク・エコーの男性用香水の広告では、女性の首に牙を立てる男の写真に「人間をとりこにしろ」というコピーが躍る。

 映画もドラマも小説も、ファンクラブも増えている。CWテレビは9月に、ティーン向けのドラマ『バンパイア・ダイアリーズ』をスタートさせる。毎年夏にサンディエゴで開かれるポップカルチャーの祭典「コミック・コン・インターナショナル」でも、今年は吸血鬼関連のイベントが盛りだくさんだった。

 8月にはハリウッドで、吸血鬼だけをテーマにした初の大規模イベント「バンパイア・コン」が開かれる。ここでは「バンパイア映画祭」はもちろん、『トゥルー・ブラッド』のスタッフも参加するパネルディスカッションや、セクシーなダンスグループ「バンパイアエロチカ」が登場する「死の舞踏会」が予定されている。

「吸血鬼は大変な人気」と語るのは、バンパイア・コンの広報担当ハイディ・ジョンソン。「うちのおばあちゃんまで夢中よ」

コンドームもちゃんとつける

 吸血鬼とセックスが結び付けられたきっかけは、アイルランドの作家ブラム・ストーカーが1897年に発表した『吸血鬼ドラキュラ』だった。この作品でドラキュラ伯爵は、2人の若い女性に牙を立てる。

『トゥルー・ブラッド』が大ヒットする前にも、魅力的な吸血鬼を描いた映画やドラマはたくさんあった。92年のフランシス・フォード・コッポラ監督の映画『ドラキュラ』では、ゲーリー・オールドマンが一風変わったドラキュラ伯爵を熱演。94年の映画 『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』では、トム・クルーズとブラッド・ピットが吸血鬼を演じた。

 しかし、いま人気の吸血鬼はセクシーなだけではない。女性たちに本当にセックスしてみたいと思わせるところがある。

 近頃の吸血鬼たちは、ある意味で牙を抜かれている。コンドームもつけるし、太陽の下で爽やかな笑顔を見せたりもする。人間ぽくなった吸血鬼は、10代前半の少女たちまでとりこにしている。

『トゥルー・ブラッド』のエグゼクティブプロデューサーを務めるアラン・ボールに言わせれば、彼のドラマは「この社会に居場所を見つけようとする人々の物語」でもある。「吸血鬼はこれまでずっと怖がられ、誤解され、アウトサイダーとして扱われてきた。そこが面白いと思った」

 セックスアピールと危険な香り。女性たちが吸血鬼に憧れる最大の理由はその2つのようだが、もっと大きな要因もありそうだ。

「経済危機が起きて誰もが不安を抱える時代に、吸血鬼の寓話は強烈なインパクトを持っている」と語るのは、オーロラ大学(イリノイ州)で「文学、映画、大衆文化の中の吸血鬼」という授業を持つドノバン・グウィナー准教授。「いつも冷静で、永遠の命を持ち、信じ難いほど魅力のある存在がこんな時代に受けるのは、まったくおかしなことじゃない」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

仏大統領、イラン政権交代につながる軍事行動に反対 

ワールド

G7、ウクライナ巡る共同声明断念 米国が抵抗=カナ

ビジネス

NY外為市場=ドル上昇、中東緊迫化で安全買い

ワールド

G7、重要鉱物やAIなど6分野の共同声明で合意=議
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:コメ高騰の真犯人
特集:コメ高騰の真犯人
2025年6月24日号(6/17発売)

なぜ米価は突然上がり、これからどうなるのか? コメ高騰の原因と「犯人」を探る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロットが指摘する、墜落したインド航空機の問題点
  • 2
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越しに見た「守り神」の正体
  • 3
    イタリアにある欧州最大の活火山が10年ぶりの大噴火...世界遺産の火山がもたらした被害は?
  • 4
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 5
    50歳を過ぎた女は「全員おばあさん」?...これこそが…
  • 6
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 7
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 8
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?.…
  • 9
    コメ高騰の犯人はJAや買い占めではなく...日本に根…
  • 10
    ホルムズ海峡の封鎖は「自殺行為」?...イラン・イス…
  • 1
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロットが指摘する、墜落したインド航空機の問題点
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 4
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 5
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタ…
  • 6
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 7
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?.…
  • 8
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 9
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 10
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊の瞬間を捉えた「恐怖の映像」に広がる波紋
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 6
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 7
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 8
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 9
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中