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悠々自適の名優ライフ

40年来トップを走り続けるイギリス屈指の演技派の、妻と仕事とガーデニングを愛する静かな老後をキャッチ

2009年4月22日(水)17時28分

愛こそすべて 気の合う仲間と気に入った映画だけを作っているというケイン Shannon Stapleton-Reuters

 1933年のロンドンで、清掃作業員の母と魚市場で働く父の元に生まれたマイケル・ケインは、40年以上スターの座に君臨してきた。64年の『ズール戦争』で注目されて以来、コンスタントに活躍。『ダークナイト』では前作に引き続き、バットマンに忠義を尽くす執事を好演したのも記憶に新しい。

『ハンナとその姉妹』『サイダーハウス・ルール』でアカデミー賞に輝いた名優が、最新作に選んだのは『イズ・エニバディ・ゼア?』。引退したマジシャンが老人ホームに入り、死に妙な関心を抱く経営者の幼い息子と友情を結ぶ物語だ。本誌ニッキー・ゴスティンにケインが近況を語ってくれた。
       
――新作の撮影は楽しめました?

 ああ、楽しかった。素晴らしいキャストとスタッフに恵まれたし、今の私は働きたいときだけ働き、完璧主義を通せるからね。最近は愛を感じられる作品だけを選び、気に入った人としか働かないんだ。

――老人役は気が滅入る?

 いやいや、今回は実におかしな爺さんで、演じるのが楽しかった。ラストもシリアスになりすぎない演技を心がけたよ。それに私が演じたクラレンスはアルツハイマー病を患っている。自分の身に何が起きているかわからないんじゃ、滅入りようもない。

――マジシャンを演じるに当たり、誰かにアドバイスを頼んだ?

 うん、髪は真ん中で分けることにした。撮影現場に来てくれたマジシャンに聞いたんだが、希代の奇術師フーディーニがそうしていたとかで、マジシャンはみな真ん中分けなんだそうだ。

――『ジョーズ1987 復讐篇』に出たときは、家のリフォーム資金にでも困っていたんですか。

 さあ。

――いや、なぜあんな駄作に出たのか不思議で。

 出たといっても、ほとんどカメオ出演だよ。10分程度の。

――ではお金のために?

 それは違う。どのみち、私が責任を負うのは主演作だけ。今まで75~80本に主演してきた。

――恐るべき業績です。

 今も主役を張っているとはね。ただし、次の仕事は決まっていない。言ってみれば失業中さ。この間も「引退したんですか」と聞かれたよ。気に入った脚本がなければ、このまま引退だろうね。やりたい仕事しかしないから。1年半休んで、暇にも慣れてきた。

――オフのときは何を?

 物を書き、庭仕事をやり、料理を作り、旅に出る。私はものすごくマメな男で、家族と一緒にいるのが大好きなんだ。だからすることはいくらでもある。

――庭で育てるのは野菜? それとも花?

 なんでも育てるよ。21エーカーと広いんでね。

――地面にはいつくばって、土で手を汚す?

 そうだよ。庭師と一緒に庭に出ている。

――お気に入りは?

 野菜だね。食べられるから。買った野菜よりずっとうまいんだ。

――殺虫剤は使いませんよね?

 私の庭は100%オーガニック。ウジ虫にも居場所はある。

――おしどり夫婦で知られています。結婚を長続きさせる秘訣は?

 バスルームを別にする。これは基本中の基本だ。それから対等な関係を保ち、互いにとことん尽くすこと。うちみたいにね。

――結婚して何年になります?

 38年。

――40周年は盛大に祝います?

 どうだかね。それまで生きていられたら、それだけで御の字だ!

――クリスチャン・ベールが『ターミネーター4』の現場で暴言を吐いた事件はご存知ですか。

 ああ、聞いた。

――『バットマン』の撮影中、彼がキレるのを目撃したことは?

 一度もない! クリスチャンは汚い言葉も使わない男だから、あのニュースにはただただ驚いた。私のほうが口が悪いくらいなんだ。

 クリスチャンが暴言を吐いたのは驚きだが、役者はかんしゃくを起こすものだ。撮影現場では誰かが注意散漫だったり、きちんと物事が運ばなかったりということがままある。私だって昔は爆発した。あの一件で腹立たしいのは、一部始終を録音していたバカがいたことだ。ああいう手合いは嫌いだね。

――ロンドンの下町っ子ならではの言葉遊びを教えてください。

「トラブル・アンド・ストライフ(災難とけんか)」でワイフの意味。「エイモス・アンド・アンディ」はブランデー。

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