最新記事

ビジネス

26歳社長は「溶接ギャル」 逃げた転職先で出会った最高の「天職」

2021年9月11日(土)16時08分
村田 らむ(ライター、漫画家、カメラマン、イラストレーター) *東洋経済オンラインからの転載

上司のイジメはその後もさらに続いた。

粉すけさんが特に問題を起こしていなくても、とにかく怒鳴られた。

さすがに上層部でも問題になり、その上司は社長に呼び出されて、

「これ以上、イジメをするなら減給します」

と伝えられた。

「その上司は減給されても、さらに私をイジメ続けたんです。なんの意地なんだかわからないけど、すごいですよね?」

ある日、我慢の限界を超えてしまい、

「もう無理です!! 辞めます!!」

と会社を飛び出そうとした。

「最後にタイムカードを入れようとしたら、怒りで手が震えて差し込めませんでした。もうどうでもいいわっ!! って放り投げて、そのままとっとと車で帰りました」

粉すけさんが上司から理不尽にイジメを受けていることは、周知されていた。

会社のお金で免許を取得していた場合には取得にかかった金銭を返納しなければならないことが多いが、イジメの件があったため返納しなくていいことになった。

さまざまな仕事を転々とするうちに、アーク溶接、フォークリフト免許など多様な資格を取ることができたし、さまざまな技術を身につけることができた。

「いい加減、職場の人間関係に疲れました。私は人に好かれることも多いのですが、極端に嫌われることもあります。どちらにも理由があるんだと思います。私は意識しないまま、人の地雷を踏んでいるのかもしれません。このまま違う会社に転職しても、また同じことの繰り返しになるかもしれないと思いました。ふと『独立か......』と思い立ちました。それまでは自分で会社を経営したいと思ったことはなかったし、人の上に立ちたいという気持ちもなかったんですよね」

観光バスの全塗装仕事で得た教訓

reuters__20210910194145.jpg

軽トラの社名ロゴ「勝倉ボデー」(写真:筆者撮影)

まだ社長になるかどうか迷っているときに、観光バスの全塗装の仕事を任された。

知人男性の下請け的なポジションで仕事を受けた。

「これがめちゃくちゃ大変な仕事でした。塗り直せと言われたバスはボロボロに朽ち果ててました。そもそも塗装は趣味でしかやったことがなかったのですが、それでも私が全部やらなければなりませんでした」

バスのボディーの鉄板には、パテが塗り込まれたうえに、錆止めが塗られ、その上に油性塗料とクリア塗料が吹き付けられていた。さらにその上に大きなステッカーが貼られており、最後にその上から缶スプレーで一面に色が吹き付けられていた。

「何層にもなっている塗装を全部剥離して、鉄板の損傷場所を溶接して、パテを塗ってツルツルに磨いて、色を塗る......という作業を1人でしました。1台を塗り直すのに、1カ月くらいかかりました」

1台終わると、さらに次の1台、さらに次の1台と修理を頼まれなかなか仕事は終わらなかった。

どう考えても100万円以上もらわなければ、割に合わない仕事量だった。

「そのときは、口約束で作業していたんですね。結局、80万円って話になってたんですが、渡されたのは30万円でした。その後雇い主は逃げてしまって、連絡もつかなくなりました。まったく割に合わない仕事でした。

知り合いからは

『勉強料だと思ってあきらめなよ』

と慰められました。つくづく契約書、請求書って大事なんだな、と学びました」

そうして粉すけさんは、24歳のときに独立し、『勝倉ボデー』の社長になった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

トヨタが通期業績を上方修正、販売など堅調 米関税の

ビジネス

BMW、第3四半期コア利益率が上昇 EV研究開発費

ビジネス

ソフトバンクG、オープンAIとの合弁発足 来年から

ビジネス

中国、40億ドルのドル建て債発行へ=タームシート
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 2
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 3
    「あなたが着ている制服を...」 乗客が客室乗務員に「非常識すぎる」要求...CAが取った行動が話題に
  • 4
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 5
    これをすれば「安定した子供」に育つ?...児童心理学…
  • 6
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 7
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 8
    「白人に見えない」と言われ続けた白人女性...外見と…
  • 9
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 10
    高市首相に注がれる冷たい視線...昔ながらのタカ派で…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 6
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 9
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 10
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中