最新記事

経営

ダイバーシティ論は「グローバル戦略に必要」なだけではない

2018年10月25日(木)16時30分
松野 弘(千葉大学客員教授、現代社会総合研究所所長)

frimages-iStock.

<国際競争の只中にある日本企業は「ダイバーシティ・マネジメント」を実現できるか。改めて「ダイバーシティ」とは何かを整理する>

グローバル化のうねりの中で、日本企業が国際競争の真っ只中に置かれている。ただし将来的にも外国企業との市場獲得競争に勝ち抜いていくためには、世界の多様な人材を確保していく必要がある。すなわち、「ダイバーシティ」が重要なキーワードになる。

グローバル化の世界的なリーダーであるアメリカ企業は、多様な文化的背景や価値観をもった人材を率先して雇用し、それぞれのローカルな市場に最適な経営戦略を展開し、成功を収めてきた。日本企業もこうした市場トレンドを見極め、世界の多様な人材を取り込んだ「ダイバーシティ・マネジメント」ができるかどうかが、きわめて重要な課題であるといえよう。

そもそも「ダイバーシティ」(Diversity=多様性)*という言葉は、欧米の多国籍企業が世界市場に進出し、多角的な経営戦略を展開していく過程で登場してきたものである。つまり、企業の経営資源であるヒト・モノ・カネ・情報等のグローバル化の進展が、多様な価値観をもった人材を多様な市場に投入することにつながった。新しい市場ニーズに企業側が応えようとしたものなのだ。

*この「ダイバーシティ」は、正確には<Diversity & Inclusion=多様性の受容>を簡略化したものである。

この「ダイバーシティ」という考え方は本来、アメリカにおける人種等によるさまざまな社会的差別を撤廃していく運動が進展した結果、1964年に「公民権法」(Civil Rights)が施行され、それまで黒人・ヒスパニック系・アジア系等から構成されるマイノリティが企業における就職や昇進等で差別を受けていたことに対して、「積極的差別是正措置」(Affirmative Action)の一環の、そのポジティブな政策展開として出てきたものでもある。すなわち、企業におけるマイノリティに対するさまざまな差別的行為を撤廃し、平等な機会をマイノリティに付与し、社会がそれを受容するというというものである。

また、この「ダイバーシティ」には、ジェンダー(性別)、人種・民族、宗教、国籍、身体状況(身体障害者等)、世代(高齢者等)といった属性を越えた人材の登用を進め、さらには、働き方(フレックスタイム、在宅勤務、育児休業等)、雇用形態(正社員、契約社員、派遣社員等)、労働の場所(在宅、地域限定等)といった働き方のスタイルと労働条件に多様性をもたせようという考え方も含まれている。

他方、上述のように1980年代より欧米の巨大企業を中心として、企業活動のグローバル化が進展し、市場・技術の多様化に対応した人材の登用が企業のグローバル戦略上、必要となってきたのである。

世界各地のローカル市場には、当該市場に精通した、すぐれた人材を登用しようという「グローバル市場における適材適所」の方針が世界各国の有力企業において採用された。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米ウクライナ首脳、日本時間29日未明に会談 和平巡

ワールド

訂正-カナダ首相、対ウクライナ25億加ドル追加支援

ワールド

ナイジェリア空爆、クリスマスの実行指示とトランプ氏

ビジネス

中国工業部門利益、1年ぶり大幅減 11月13.1%
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と考える人が知らない事実
  • 3
    【銘柄】子会社が起訴された東京エレクトロン...それでも株価が下がらない理由と、1月に強い秘密
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 6
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 7
    「アニメである必要があった...」映画『この世界の片…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    2026年、トランプは最大の政治的試練に直面する
  • 10
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 6
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 7
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中