最新記事
座談会

「アフリカでビジネスをする」の理想と現実...国際協力銀行(JBIC)若手職員が語る体験談

2025年9月11日(木)10時40分
※JBIC Todayより転載

「国ごと」の政治事情や商習慣に寄り添う

平戸 ケニアの案件は、かなり苦労したと伺っています。

オタイべ はい、私が入行する前から始まっていた案件で、最初に相談を受けてから融資契約締結まで7年7カ月を要しました。JBIC側の担当者もこれまでに複数名交代していて、私はそのラストスパートの部分を引き継いだ形です。案件承諾まで時間を要した理由の1つがケニア政府の政権交代でした。

平戸 これもアフリカ特有の事情かもしれませんが、大統領選挙は案件を進める上で、対応に注意が必要な時期でもありますよね。すべてが一度リセットされるような場面は、なかなか厳しいものがあります。

私が担当した2023年の太陽光発電事業と小学校向けランタン電化事業への融資は、JBICとして初のベナン向けプロジェクトであり、「GREEN(地球環境保全業務)」の枠組みの下で初めてアフリカ政府向けに実施した案件でした。ここでも、許認可プロセスで何度もやりとりを重ねるなど、同様に時間と労力のかかるプロセスを経験しました。

JBICが支援する、ケニア・メネンガイ地区での地熱発電所建設プロジェクトの現場

JBICが支援する、ケニア・メネンガイ地区での地熱発電所建設プロジェクトの現場

森岡 担当者が変わるという点も含めて、大統領選挙後の3〜4カ月間は、業務がまったく進まなくなることもあります。実際、コートジボワールでも今年10月に大統領選を控えており、その時期に交渉が重なるとスケジュールが破綻するのは明らかでした。この点を相互認識し、アフリカ基準ではかなり急ピッチで案件が進んだのですが、同国の財務官僚の方々が非常に優秀で、大きな助けとなりました。

現地の実務部隊の方々にJBICの役割を理解してもらう際にも財務官僚の方々がうまく橋渡しをしてくださり、スムーズに進めることができました。

平戸 23年の案件に続き、現在もさらなる協業案件について協議を続けています。すでに荒波に揉まれてきた経験があるからこそ、今後はより現地にとってもメリットの大きい提案やアプローチができるのではないかと考えています。

一方で課題と感じるのは、JBICがアフリカ案件にも積極的に取り組んでいることや、日本企業の活動を支援する多様な金融メニューがあることが、十分に認知されていない点です。アフリカにおける事業展開には高いポテンシャルがあることを、より多くの日本企業に実感してもらえるよう、JBICの取り組みを広く発信し、実績を積み重ねていきたいと考えています。

ベナン、アルジェリア、そして昨年のCOP29(第29回気候変動枠組条約締約国会議)の際に覚書を締結したモロッコでのプロジェクト実現に向けて、アフリカ担当者として着実に追いかけていくつもりです。

JBICパリ駐在員事務所 駐在員 平戸 瞳

JBICパリ駐在員事務所 駐在員 平戸 瞳

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米CPI、8月は前月比予想上回る加速 前年比1月以

ビジネス

ECBが金利据え置き、今後の金利動向示唆せず

ワールド

国連安保理が緊急会合へ、無人機の領空侵犯で ポーラ

ワールド

英駐米大使、エプスタイン氏との関係で解任
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 2
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題」』に書かれている実態
  • 3
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 4
    「なんて無駄」「空飛ぶ宮殿...」パリス・ヒルトン、…
  • 5
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 6
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 7
    毎朝10回スクワットで恋も人生も変わる――和田秀樹流…
  • 8
    カップルに背後から突進...巨大動物「まさかの不意打…
  • 9
    謎のロシア短波ラジオが暗号放送、「終末装置」との…
  • 10
    村上春樹が40年かけて仕上げた最新作『街とその不確…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニングをする女性、異変を感じ、背後に「見えたモノ」にSNS震撼
  • 4
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題…
  • 5
    眠らないと脳にゴミがたまる...「脳を守る」3つの習…
  • 6
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 7
    「あのホラー映画が現実に...」カヤック中の男性に接…
  • 8
    【動画あり】9月初旬に複数の小惑星が地球に接近...…
  • 9
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 10
    「なんて無駄」「空飛ぶ宮殿...」パリス・ヒルトン、…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 9
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 10
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中