最新記事
中国

ピークアウトする中国経済...「借金取り」に転じた「一帯一路」の真実

2025年1月29日(水)19時45分
梶谷 懐(神戸大学大学院経済学研究科教授)、高口康太(ジャーナリスト、千葉大学客員教授)

中国は生産力が過剰なだけではなく、資金も余っていた。中国国民は消費に消極的で貯蓄率が高い。この貯蓄が中国国内の投資に向かえば、さらに生産力が高まり、いびつな経済バランスは解消されない。投資依存の成長路線から脱却するためには、このマネーを国内ではなく、海外への投資に振り向ける必要があった。

興味深い実証研究がある。ハイデルベルグ大学教授のアクセル・ドレハーらの研究グループは、2000年から2014年にかけての中国の途上国支援をデータベースとし、どのような要因が援助額に影響を与えているかを分析している。その結果、鉄鋼やアルミ、セメントなどといった生産財の過剰生産、そして外貨準備額の増加が、対外資金援助額の増加と相関していることが明らかとなった。

すなわち、外交的野心ではなく、過剰な国内資本や外貨準備を海外に「逃がし」、生産能力の過剰を緩和することが一帯一路に代表される対外資金援助の狙いであると裏付けられたのだ。

しかし、対外資金援助攻勢を通じて新興国の成長を促す、という意味での一帯一路構想は、長くは続かなかった。

大判ぶるまいから借金取りへ

『ピークアウトする中国――「殺到する経済」と「合理的バブル」の限界』

『ピークアウトする中国――「殺到する経済」と「合理的バブル」の限界』より

上図は中国から新興国への「純資金フロー」の推移を示している。活発に行われていた援助は2016年をピークに減少し、2019年以降はむしろマイナス基調に転じている。つまり、新たに融資する額よりも償還する額が上回ったことを意味している。

金を貸すフェイズから回収するフェイズに入ったわけだ。中国国内のありあまる資金をなりふり構わず新興国・途上国に振り向けるという一帯一路のイメージは、かなり早い段階で実態とかけ離れていた。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米PCE価格、6月前年比+2.6%に加速 前月比+

ビジネス

再送-トランプ大統領、金利据え置いたパウエルFRB

ワールド

キーウ空爆で8人死亡、88人負傷 子どもの負傷一晩

ビジネス

再送関税妥結評価も見極め継続、日銀総裁「政策後手に
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ関税15%の衝撃
特集:トランプ関税15%の衝撃
2025年8月 5日号(7/29発売)

例外的に低い日本への税率は同盟国への配慮か、ディールの罠か

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 2
    いま玄関に「最悪の来訪者」が...ドアベルカメラから送られてきた「悪夢の光景」に女性戦慄 「這いずり回る姿に衝撃...」
  • 3
    枕元に響く「不気味な咀嚼音...」飛び起きた女性が目にした「驚きの光景」にSNSでは爆笑と共感の嵐
  • 4
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 5
    日本人の児童買春ツアーに外務省が異例の警告
  • 6
    【クイズ】1位は韓国...世界で2番目に「出生率が低い…
  • 7
    一帯に轟く爆発音...空を横切り、ロシア重要施設に突…
  • 8
    M8.8の巨大地震、カムチャツカ沖で発生...1952年以来…
  • 9
    街中に濁流がなだれ込む...30人以上の死者を出した中…
  • 10
    「自衛しなさすぎ...」iPhone利用者は「詐欺に引っか…
  • 1
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 2
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの習慣で脳が目覚める「セロ活」生活のすすめ
  • 3
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜つくられる
  • 4
    いきなり目の前にヒグマが現れたら、何をすべき? 経…
  • 5
    航空機パイロットはなぜ乗員乗客を道連れに「無理心…
  • 6
    中国が強行する「人類史上最大」ダム建設...生態系や…
  • 7
    いま玄関に「最悪の来訪者」が...ドアベルカメラから…
  • 8
    【クイズ】1位は韓国...世界で2番目に「出生率が低い…
  • 9
    「様子がおかしい...」ホテルの窓から見える「不安す…
  • 10
    枕元に響く「不気味な咀嚼音...」飛び起きた女性が目…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 3
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 4
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 5
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの…
  • 6
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは…
  • 7
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜…
  • 8
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップ…
  • 9
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人…
  • 10
    いきなり目の前にヒグマが現れたら、何をすべき? 経…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中