日本企業が海外M&Aで存在感、低金利や株主圧力背景に
3月18日、日本企業による海外企業のM&A(合併・買収)が活発化している。写真はニューヨークのビル群。2023年7月撮影(2024年 ロイター/Amr Alfiky)
日本企業による海外企業のM&A(合併・買収)が活発化している。余剰資金を成長力の高い国外へ振り向ける流れが加速し、年初からの総額は5年ぶりの高水準で推移。買い手としての経験も積み重ね、M&A市場で世界的に存在感を増している。
低金利が続く国内で買収資金の借り入れコストが依然低いことや、株主からの圧力を受けて資本効率向上のための投資を積極化していることなどが背景にある。日銀が近く利上げをしても金利の上昇は緩やかとみられる一方、金融緩和策の修正を受けて円安圧力が和らげば、日本企業による海外M&Aの意欲はさらに高まる可能性がある。
<日本企業は安定的な買い手>
ロンドン証券取引所グループ(LSEG)のデータによると、2023年に日本企業が手掛けた海外企業の買収案件は前年比81%増の580億ドル。日本を除くアジア太平洋地域のM&A市場が26%減少する中で日本の活況ぶりが目立った。今年に入っても流れは継続し、3月中旬までの総額は166億ドルと、2019年以来の高い水準だ。
成長余力のある海外での収益基盤強化を狙った企業買収は2000年代から増えてきたが、足元は大型案件が相次いでいる。
昨年12月に日本製鉄が米鉄鋼大手のUSスチールを約2兆円で、今年2月にはルネサスエレクトロニクスが半導体ソフトウエア開発のアルティウムを約9000億円で買収することを発表した。東京ガスは、昨年末に約4000億円で買収した米シェールガス開発のロッククリフ・エナジーを通じて米国で成長を狙う。
投資銀幹部や弁護士らM&Aのアドバイザーによると、コロナ禍で対象会社の調査などが抑制されていた反動が出ているほか、東京証券取引所による資本効率改善要請やアクティビスト株主からの余剰資金の還元圧力を背景に、収益力向上を目的とした資金の使途としてM&Aに着目する企業が増えていることが要因の1つにあるという。
バークレイズ証券投資銀行部門M&Aアドバイザリー部長の大塚雄三氏は、「株主からのプレッシャーが高まる中、成長のために待ったなしで前に進まなければいけない、という感覚は日本企業の中で徐々に強まっている」と話す。
日銀による大規模金融緩和の転換点が近づいているものの、金融引き締めは緩やかなペースに留まると予想されており、日本企業が買収資金の調達コストで有利な状況は変わらないというのが業界関係者の一致した見方だ。利上げで円安基調が修正されれば円建てでの買収価格は割安となるため、海外M&Aをさらに促す可能性も指摘されている。