日本企業が海外M&Aで存在感、低金利や株主圧力背景に
国際法律事務所フレッシュフィールズブルックハウスデリンガーのパートナー、ノア・カー氏は「数年前と比べて、日本企業は買い手としてより歓迎されている」と話す。欧米での金利高止まりや中国経済の低迷などで世界のM&A市場の回復が遅れる中、日本企業は取引相手として信頼度が高く、安定して資金調達ができることなどが評価されているという。
<なお高づかみのリスク>
海外M&Aは、組織文化の違いや現地の情報不足などを理由に難易度が高いとされる。日本企業はかつて、M&Aの「意思決定が遅い」、「買収先の経営関与が不得意」といった印象を持たれていたが、成功、失敗両方の経験が蓄積されてきたことで状況は変化しつつある。
みずほ証券グローバル投資銀行部門グローバルアドバイザリーヘッドの木戸明宏氏は、M&A人材の流動化も日本企業の経験値の底上げに寄与していると話す。投資銀行で経験を積んだ後に事業会社に転職してM&A業務を担う人材が増え、「案件の落とし穴を事前に把握し、おかしな高値づかみやリスクに目をつぶった買収などはなくなってきた」と語る。
また、ビジネス経験のある社外取締役の増加が案件の選別に一役買っているほか、不得手とされた買収先の経営についても、買収した企業の現地の幹部を目利き役として取り込んで新たな買収につなげるルネサスのような企業も出てきている。
一方、株主や東証からの資本効率改善のプレッシャーによって、精査が不十分なまま海外M&Aに乗り出すリスクを懸念する声もある。コンサルティング会社、ベイン・アンド・カンパニーのパートナーで日本法人会長の奥野慎太郎氏は、「世界経済の不確実性や地政学的リスクの高まりによって買収によるシナジー多く見込んだ買収価格設定が難しくなっており、海外の事業会社はこのところ、買収に対して非常に慎重になっているが、例外は、借り入れコストが低くキャッシュを持っている日本企業」と指摘する。
過剰なキャッシュに対する株式市場の目が厳しくなる中、解決策として安易に海外買収を選択すると、高値づかみや将来の減損リスクを高めることになると警鐘を鳴らす。
日本企業によるM&Aの活況を背景に、一部の金融機関や弁護士事務所ではM&Aの人員を増強している。みずほ証券の木戸氏によると、同社のM&Aチームはこの3年で1割ほど増員した。フレッシュフィールズは最近、日本で複数の米国法弁護士を新たに迎えた。別の国際法律事務所のクリフォードチャンスも、日本市場の成長に合わせ、この一年間でチームを拡大したという。