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円安の今こそ日本経済は成長できる...円高はデフレと失業をもたらす(浜田宏一元内閣官房参与)

ABENOMICS STRIKES BACK

2022年10月26日(水)17時51分
浜田宏一(元内閣官房参与、エール大学名誉教授)

変動為替制度で為替レートは他国の金融政策に――他国の金融引き締めが自国には拡張的に働くという形で――依存しているが、その依存関係を理解して貨幣政策を使えば、それで自国の景気や物価を基本的に決定できるという長所を持つ。従って、指数など見なくても自国の望ましい物価、景気の目標を追求すればよい。

他国の金利政策や量的緩和に合わせる必要はなく、日本銀行は自国の景気や物価がどうなるかを見極めて行動すればよい。現在の消費者物価低迷が一時的で、いずれはインフレ体質が戻りそうだと考えれば引き締めも必要となる。

図1と一緒に見てほしいのが、第2次大戦後の日本の就業者数の伸びをグラフにした図2だ。

■【グラフを見る】円安の時にこそ、明確に就業者数が伸びている

戦後の円の歴史と経済成長

戦後、世界はほぼ固定相場制の下にあり、日本は占領下で決められた1ドル=360円という円安の為替レート下にあった。池田勇人内閣による奇跡的な所得倍増計画の成功も、実は割安の円レートが後押ししていた。1971年までが1ドル=360円の固定制、それから85年のプラザ合意までが円安の時代であった。

プラザ合意後は円高の弊害を恐れて緩和気味に財政、金融政策が続けられ、1990年にかけての株式、地価のバブルとその崩壊を招く。それらは確かに日本経済にマイナスの影響を残した。しかし90年以後、日本銀行の強いインフレ回避体質がそれ以上の問題だったのである。すなわち、バブル崩壊に懲りた日銀は、デフレ志向の強い日銀出身の総裁が資産バブル退治に大ナタを振るった。

その極端な例は「平成の鬼平」の名でジャーナリズムから喝采を浴びた三重野康総裁であった。円高論者の速水優総裁も在任中(98~03年)、引き締めを続けすぎた。流動性の供給にも意を用いた福井俊彦総裁は例外で、一時日本経済の復活が見られたがゼロ金利停止で足元がくじけた。

円高のインデックスで測ると、為替レートが円安にすぎると――直感的に言えば外国のほうが物価水準が高い――国内産業に追い風があり、労働需給が逼迫し、国内にインフレ圧力があることを示している。これを元米大統領経済諮問委員長のアーサー・オーカンとジャネット・イエレン財務長官は「高圧経済」と定義した。

逆に「低圧経済」の下では自国通貨は高すぎ、国内産業は過剰に設備があり、失業も多くデフレ圧力がある状態を意味している。90年頃より前の日本経済は高圧経済であった。それに不満な西欧諸国により85年のプラザ合意をのまされ、90年以後日本には「低圧経済」「デフレと不況の20年間(ないし30年間)」が訪れる。

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