最新記事

世界経済

パンからポテチ、化粧品にまで使われる植物油が全面禁輸!? ウクライナ戦争の余波が影響

2022年5月16日(月)17時55分
大塚智彦
アブラヤシの実

インドネシアが全面禁輸を発表したパーム油のもととなるアブラヤシの実 Willy Kurniawan - REUTERS

<さまざまな輸入品が値上がりするなか、食品から洗剤にまで重宝される植物油まで......>

インドネシア政府が同国の輸出主要品目でもあるパーム油の全面的輸出禁止措置に踏み切ってから約3週間。パーム油の価格が高騰し、インドネシアから輸入している日本などの各国の間で不安が拡大する一方、他の油製品もパーム油の品薄感に伴い値段が上昇するなど消費者にとっては厳しい状況が続いている。

パーム油というとあまり馴染みがないかもしれないが、植物油、マーガリン、ショートニング、グリセリン、界面活性剤というとイメージしやすいのではないだろうか。パンやポテトチップス、フライドチキン、ドーナツ、コロッケなどに使用され、食品以外にもシャンプー、洗剤、石鹸そして近年はバイオマス燃料としても利用されており、日本人の生活にも深く関わっている。

こうしたさまざまな用途で使われているパーム油の生産で世界シェア55%を占めているのがインドネシアだ。最大輸出国の突然の輸出停止措置を受け、シェア2位のマレーシアは増産して、国際社会での供給不足への対策に乗り出そうとしており、今後パーム油を巡ってインドネシア、マレーシア間の摩擦が増大する可能性も出てきている。

国内消費の不足を危惧して禁輸に

インドネシア政府は4月28日、突然自国産のパーム油の輸出を一時的に全面的に禁止する方針を明らかにした。あまりに突然の措置にカリマンタン島東海岸のバリクパパンにあるパーム油輸出基地から海外に出港しようとしていた輸送船が何隻も沖合で足止めとなるなどの混乱が生じた。

インドネシアは世界最大のパーム油生産国で約4000万トン、2位はマレーシアが約2000万トンと3位のタイを大きく引き離している。日本は日本貿易振興機構(JETRO)などによると2021年には63万トンのパーム油を世界から輸入し、うち22%がインドネシア産という。

インドネシアのジョコ・ウィドド大統領はパーム油の禁輸措置について、国内のパーム油消費の高まりを受けて不足となる事態を回避するためと説明。あくまで国内対策の結果であり、供給が補え、価格も安定したら禁輸措置は解除する、としている。

こうした措置に踏み切った背景には複数の要因があるとされる。

まずロシア軍によるウクライナ侵攻でロシアやウクライナからの「ひまわり油」が国際市場で品薄になったことが挙げられる。この品薄に連動する形でパーム油の価格も高騰。インドネシアのパーム油業者が国内より輸出に振り向けることで利益を確保しようと動き出したことも背景にあるといわれている。

また世界第4位の人口約2億7000万人のインドネシアはその約88%をイスラム教徒が占めており、約1カ月に及ぶ「断食」が終わる5月上旬は、帰省先の家庭で連日大人数による宴会状態となり、パーム油の消費が一気に増える時期でもある。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

OPECプラスが生産量据え置きを決定、27年以降の

ビジネス

野村HD、豪マッコーリーの米欧資産運用部門買収を完

ワールド

トランプ氏、マドゥロ氏との電話協議確認 空域発言は

ワールド

豪住宅価格、11月も最高水準 複数州都で大幅上昇=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業界を様変わりさせたのは生成AIブームの大波
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    メーガン妃の写真が「ダイアナ妃のコスプレ」だと批判殺到...「悪意あるパクリ」か「言いがかり」か
  • 4
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 5
    「世界で最も平等な国」ノルウェーを支える「富裕税…
  • 6
    コンセントが足りない!...パナソニックが「四隅配置…
  • 7
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 8
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 9
    中国の「かんしゃく外交」に日本は屈するな──冷静に…
  • 10
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 3
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 4
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 5
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 6
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 7
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 8
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後…
  • 9
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 10
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中