最新記事

中国

厳戒ロックダウンの上海から金融関係者が大量脱出 香港離脱組はUターン

2022年4月27日(水)17時11分
上海で防護服を着た人たち

コロナ感染予防のロックダウンで自宅に閉じ込められたままの上海の金融関係者らが上海に見切りをつけ、香港や他の金融センターに戻って働く準備をしつつある。写真は16日、上海で防護服を着た人たち(2022年 ロイター/Aly Song)

新型コロナウイルス感染予防のロックダウン(都市封鎖)で自宅に閉じ込められたままの上海の金融関係者らが上海に見切りをつけ、香港や他の金融センターに戻って働く準備をしつつある。多くは上海で仕事を始めて数年しかたっていないが、事業の展望は損なわれ、家族のための日々の食べ物や生活必需品の確保もままならないためだ。

業界幹部らによると、ロックダウンが長期化する中で、見込みのあった金融案件が物理的な理由から保留になったままになるなど、事業に影響が出始めている。

2020年暮れ頃に香港から上海に移ったプライベート・エクイティ投資家の男性は「上海で起きていることはほとんどの人にとって衝撃的だ。これほどまでに収拾がつかない状態になると誰が想像しただろうか」と嘆く。

この男性は外国への渡航制限が緩和され、中国本土と香港間を容易に行き来できるようになるのを待ち受けている。自分の子どもたちを香港の学校に戻し、自分は必要最低限な範囲を除いて上海関連の仕事を減らすことを考えている。「最大のフラストレーションは、今は自分ではどうすることもできないことだ」という。

上海は地域の金融一大拠点になる野望を掲げていただけに、こうした上海脱出の動きが本格化すれば痛手になる。中国政府の金融セクター開放を受けてここ数年、上海で拠点を拡充してきた外資系の投資銀行や保険会社、資産運用会社などにとっても聞きたくない話だ。

微信(ウィーチャット)に投稿された採用情報を見るだけでも、ゴールドマン・サックスは上海の人員を10人近くに増やそうとしていた。JPモルガンは昨年、上海事業を100%子会社にしたばかり。ブラックロックは上海のファンド部門を約20人増員しようとしている。

顧客の近くで仕事をし、新しい分野での自分の専門性を高め、大型案件をものにしようと、多くのバンカーやトレーダーやファンドマネジャーらが香港などから上海に移ってきていた。

今、上海のバンカーらの最大の難関は、株式の新規公開(IPO)を計画したり合併・買収(M&A)の機会を探ったりする顧客企業に対し、工場などでの実地のデューデリジェンス(資産査定)ができないことだ。ある欧州系銀行の投資銀行部門幹部は「デューデリをバーチャルでやるのは不可能だ」と言い放つ。この幹部は2月に臨時ベースで上海に来ていたという。

人材会社REフォース・グループで金融業界を担当する上海駐在幹部のジェイソン・タン氏は「ロックダウンが終わったとたん、あらゆる業界の上海駐在員たちが中国以外での仕事を求めて交渉を始めるのではないか。(上海で)ロックダウンはまた起きるかもしれないし、次はもっと長期化し、もっと厳しくなってもおかしくない」と指摘した。

[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2022トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます


【話題の記事】
・中国の不動産バブルは弾けるか? 恒大集団の破綻が経済戦略の転換点に
・中国製スマホ「早急に処分を」リトアニアが重大なリスクを警告
・武漢研究所、遺伝子操作でヒトへの感染力を強める実験を計画していた



今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

G7外相、イスラエルとイランの対立拡大回避に努力=

ワールド

G7外相、ロシア凍結資産活用へ検討継続 ウクライナ

ビジネス

日銀4月会合、物価見通し引き上げへ 政策金利は据え

ワールド

アラスカでの石油・ガス開発、バイデン政権が制限 地
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離れ」外貨準備のうち、金が約4%を占める

  • 3

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負ける」と中国政府の公式見解に反する驚きの論考を英誌に寄稿

  • 4

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 5

    「韓国少子化のなぜ?」失業率2.7%、ジニ係数は0.32…

  • 6

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 7

    日本の護衛艦「かが」空母化は「本来の役割を変える…

  • 8

    中ロ「無限の協力関係」のウラで、中国の密かな侵略…

  • 9

    毎日どこで何してる? 首輪のカメラが記録した猫目…

  • 10

    便利なキャッシュレス社会で、忘れられていること

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人機やミサイルとイスラエルの「アイアンドーム」が乱れ飛んだ中東の夜間映像

  • 4

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 7

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 8

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 9

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 10

    大半がクリミアから撤退か...衛星写真が示す、ロシア…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中