最新記事

仮想通貨

日銀のデジタル通貨実証実験、民間事業者は「協調」と「競争」 思惑に温度差

2021年10月28日(木)10時44分

デジタル化を積極的に推進している地銀の関係者は「デジタル通貨によって何らかの収益を得られる仕掛けが作れるのであればいいが、現金の代わりにデジタル通貨を普及させるとなるとシステム投資が必要になって体力勝負となる。収益が見込めないのであれば体力がないところはますます弱る」と話す。

仲介機関の競争促進、ノンバンクに参入余地

一方、日銀を含む7つの中銀と国際決済銀行(BIS)による共同研究グループは、今年9月の報告書で、消費者の将来のニーズに応えるには、多様な仲介機関の間でイノベーションや選択、競争を促進するシステムが必要になるとした。

これは仲介機関が銀行だけにならない可能性を示唆するもので、参入余地がある民間事業者にとってはビジネスチャンスとなり得る。

野村総合研究所のシニア研究員、井上哲也氏は「最近、一部の欧州の国では大規模に資金決済サービスをやっているようなノンバンクにも中銀の当座預金を持たせるかという議論が進んでいる」と指摘。制度設計によっては、CBDCの仲介機関にノンバンクが入ってくる可能性もあるとみている。

マネーフォワードの執行役員で、フィンテック研究所長の瀧俊雄氏も、仲介機関に「〇〇ペイ」などを手掛ける大きな資金移動業者や、世の中で広範に物理的な接点をもっている大手鉄道事業者などが潜在的に含まれてくると指摘する。

こうした民間事業者の参入は競争を促すだけでなく、支払い決済に伴う情報やデータを利活用し、一般ユーザーに有益となる新たなサービスを生み出すことなども期待されている。スタートアップ企業が多いフィンテック業界からは「大歓迎」(沖田貴史Fintech協会会長)との声が上がる。

ただ、競争条件の公平性がしっかりと確保されるのか、一部の銀行関係者が神経質になっているという。同分野に詳しい専門家は「ノンバンクや新興企業などに参入を促すために規制緩和が行われ、自分たちの不利な方向に進むのではないかという恐怖感があるようだ」と話す。

野村総研が主催している「通貨と銀行の将来を考える研究会」の中間報告では、銀行とノンバンクが競争状態となる場合、銀行の業務規制がイコールフッティングのハードルとなる可能性があるとの声も出ていた。

様々な決済手段が共存する社会

もっとも、日銀は、現金、CBDC、銀行預金、民間デジタルマネーといった様々な決済手段が共存し、機能に応じて役割分担する社会もあると見込んでいる。

民間デジタル通貨の発行に向けた取り組みを進めているディーカレット(東京都千代田区)の時田一広社長は、自社のデジタル通貨の決済インフラでは「電子マネーのように似て非なるものが乱立するのではなく、相互運用性をしっかり担保する」と強調する。

ディーカレットが事務局を務め、民間デジタル通貨のユースケースなどを研究している「デジタル通貨フォーラム」の山岡浩巳座長は、CBDCに関する検討と民間の検討は双方に利益があり、互いがプラスの方向に刺激しあって進んでいくということになると指摘。「CBDCが発行されるとしてもあくまで決済インフラの一部を担うものであり、民間がイノベーションの主役を担うということに関しては変わらない」と話す。

(杉山健太郎 編集:石田仁志)

[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2021トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます


【話題の記事】
・中国人富裕層が感じる「日本の観光業」への本音 コロナ禍の今、彼らは何を思うのか
・世界の引っ越したい国人気ランキング、日本は2位、1位は...


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米コカ・コーラ、英コスタ・コーヒーの売却検討=関係

ワールド

ボルソナロ氏弁護団、保護命令違反否定 亡命申請問題

ワールド

ロシア下院議長が中国訪問、制裁対抗策など協議へ

ワールド

ベトナムが南沙諸島で埋め立て拡張、中国しのぐ規模に
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:台湾有事 そのとき世界は、日本は
特集:台湾有事 そのとき世界は、日本は
2025年8月26日号(8/19発売)

中国の圧力とアメリカの「変心」に危機感。東アジア最大のリスクを考える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット民が「塩素かぶれ」じゃないと見抜いたワケ
  • 2
    なぜ筋トレは「自重トレーニング」一択なのか?...筋肉は「神経の従者」だった
  • 3
    飛行機内で隣の客が「最悪」のマナー違反、「体を密着させ...」 女性客が投稿した写真に批判殺到
  • 4
    皮膚の内側に虫がいるの? 投稿された「奇妙な斑点」…
  • 5
    顔面が「異様な突起」に覆われたリス...「触手の生え…
  • 6
    【写真特集】「世界最大の湖」カスピ海が縮んでいく…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    アメリカの農地に「中国のソーラーパネルは要らない…
  • 9
    株価12倍の大勝利...「祖父の七光り」ではなかった、…
  • 10
    中国で「妊娠ロボット」発売か――妊娠期間も含め「自…
  • 1
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 2
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに感染、最悪の場合死亡も
  • 3
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人」だった...母親によるビフォーアフター画像にSNS驚愕
  • 4
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家の…
  • 5
    中国で「妊娠ロボット」発売か――妊娠期間も含め「自…
  • 6
    なぜ筋トレは「自重トレーニング」一択なのか?...筋…
  • 7
    20代で「統合失調症」と診断された女性...「自分は精…
  • 8
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 9
    「このクマ、絶対爆笑してる」水槽の前に立つ女の子…
  • 10
    飛行機内で隣の客が「最悪」のマナー違反、「体を密…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 7
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 8
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 9
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 10
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中