最新記事

自動車

テスラが自動運転機能からレーダー削除 安全犠牲のコスト削減か議論に

2021年6月7日(月)10時42分

ニュースサイトのエレクトレクによると、マスク氏はカメラだけで構成する新システムについて、混乱を引き起こす信号が少ないため、レーダーよりも安全だと述べた。

テスラ車は16年5月以降も似たような状況で事故の発生が相次ぎ、米道路交通安全局(NHTSA)は現在、テスラ車が関係した24件の事故について調査を進めている。

自動運転の他の安全技術

ほとんどの自動車メーカーと自動運転車企業は、カメラ、電波を用いるレーダー、光センサーのLiDARの3つの技術を使っている。

レーダーシステムはカメラと同様にコストが比較的低い。悪天候下で機能するが、物体を正確に認識する解像度が低い。LiDARは解像度が高いが、悪天候に弱い。

カーネギー・メロン大学のラジ・ラジクマール教授(コンピューター工学)は「種類の違うセンサーを全て使い、それを統合する必要がある」と指摘。これが業界関係者の一致した見方だ。

テスラの人工知能部門ディレクター、アンドレイ・カーパシー氏は3月のポッドキャストで、テスラのカメラシステムは「設計が非常に難しい」が、LiDAR技術を使ったウェイモのシステムより「コストはかなり安く」、EVメーカーはこの技術を広げ、さらに進化させることができると述べた。

レーダー不採用の影響

この点を巡り議論が噴出している。

カリフォルニア大学バークリー校の研究者、スティーブ・シャルドバー氏は、レーダーの削除で運転支援機能が低下し「悪天候下では『利用度が低い』という状態から『利用不可能』になる。技術的にはどう見てもばかげている。部品のコストを下げるための1つの手段に過ぎない」と手厳しい。

レーダーメーカーであるアーブ・ロボティクスのラム・マチネス最高事業責任者は、レーダーは距離を正確に測る機能が優れており、削除すれば減速中の車との衝突を回避する緊急ブレーキに影響が出ると主張。運転支援システムを開発するテラノンは、ツイッターに「レーダーを削除し、レーダーの役割を担う映像がなければ、安全性が犠牲になる」と投稿した。

テスラは、前方の車に合わせたスピードを保つ技術など一部の運転支援機能が一時的に制限されたり、停止したりする可能性があるが、数週間以内にはソフトウエアをアップデートし、再開するとしている

マスク氏はエレクトレクで、カメラによるシステムは非常に性能が向上しており、レーダーなしでも問題はないとの認識を示した。

NHTSAは先に「モデル3」と「モデルY」の運転支援機能の一部について、安全面の推奨を示す「チェックマーク」が外れると発表。米有力専門誌「コンシューマー・リポート」もモデル3は最高推奨対象ではなくなると表明した。NHTSAとコンシューマー・リポートはいずれもカメラを使った新システムをテストする意向だ。

何が最良かは不明

テスラの方針は、自動運転業界の大勢に反している。しかし、誰が正しいのかを断言するのは難しい。完全な自動運転機能はまだ開発されておらず、業界全体が当初の見通しを示すのは何年も先のことだ。

[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2021トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます


【話題の記事】
・中国人富裕層が感じる「日本の観光業」への本音 コロナ禍の今、彼らは何を思うのか
・世界の引っ越したい国人気ランキング、日本は2位、1位は...


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ミネソタ州に兵士1500人派遣も、国防総省が準備命

ワールド

EUとメルコスルがFTAに署名、25年間にわたる交

ワールド

トランプ氏、各国に10億ドル拠出要求 新国際機関構

ワールド

米政権、ベネズエラ内相と接触 マドゥロ氏拘束前から
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:総力特集 ベネズエラ攻撃
特集:総力特集 ベネズエラ攻撃
2026年1月20日号(1/14発売)

深夜の精密攻撃でマドゥロ大統領拘束に成功したトランプ米大統領の本当の狙いは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【銘柄】「住友金属鉱山」の株価が急上昇...銅の高騰に地政学リスク、その圧倒的な強みとは?
  • 2
    中国のインフラ建設にインドが反発、ヒマラヤ奥地で国境問題が再燃
  • 3
    DNAが「全て」ではなかった...親の「後天的な特徴」も子に受け継がれ、体質や発症リスクに影響 群馬大グループが発表
  • 4
    シャーロット英王女、「カリスマ的な貫禄」を見せつ…
  • 5
    AIがついに人類に「牙をむいた」...中国系組織の「サ…
  • 6
    「リラックス」は体を壊す...ケガを防ぐ「しなやかな…
  • 7
    韓国『日本人無料』の光と影 ── 日韓首脳が「未来志向…
  • 8
    中国ネトウヨが「盗賊」と呼んだ大英博物館に感謝し…
  • 9
    上野公園「トイレ騒動」に見る、日本のトイレが「世…
  • 10
    中国がインドに仕掛ける「水戦争」とは? 中国のダ…
  • 1
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率が低い」のはどこ?
  • 2
    上野公園「トイレ騒動」に見る、日本のトイレが「世界一危険」な理由
  • 3
    世界初で日本独自、南鳥島沖で始まるレアアース泥試掘の重要性 日本発の希少資源採取技術は他にも
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    正気を失った?──トランプ、エプスタイン疑惑につい…
  • 6
    母親が発見した「指先の謎の痣」が、1歳児の命を救っ…
  • 7
    韓国『日本人無料』の光と影 ── 日韓首脳が「未来志向…
  • 8
    「高額すぎる...」ポケモンとレゴのコラボ商品に広が…
  • 9
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した─…
  • 10
    世界最大の埋蔵量でも「儲からない」? 米石油大手が…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した─…
  • 6
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 7
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 8
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 9
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 10
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中