最新記事

ブロックチェーン

ブロックチェーン技術の新展開「NFT」が、これほど盛り上がっている訳

NEW CRYPTO ASSETS

2021年4月15日(木)18時38分
ドラガン・ボスコビッチ(アリゾナ州立大学研究員)
デジタル画像作品

「ビープル」が売り出したデジタル画像作品は6930万ドルで落札 2021 BEEPLEーREUTERS

<唯一無二の所有権を証明できるトークンは、商標や特許、スキルの履修証明まで可能にする>

NFTのことを詳しく聞かせてほしい──先日、弁護士をしている友人から突然尋ねられた。

NFTとは、「ノンファンジブル・トークン(非代替性トークン)」の略。デジタル資産の一種だ。この友人がNFTに興味を抱いたきっかけは、3月11日に大手オークション会社クリスティーズで、あるデジタルアートの作品が途方もない金額で落札されたことだった。

その作品は、5000点のデジタル画像を合成して作ったコラージュ作品だ。「ビープル」という名義で活動するアーティストのマイク・ウィンケルマンが制作し、それをNFT化して売りに出した。オークションは100ドルで始まったが、落札価格は最終的に6930万ドルにまで跳ね上がった。

NFTをめぐる最近の大きな話題はこれだけではない。「ニャンキャット」というアニメ画像や、ツイッターの創業者ジャック・ドーシーが最初に投稿したツイートがNFT化されて売り出されて話題になった。ニューヨーク・タイムズ紙のコラムのNFTが50万ドル余りで売れたというニュースもあった(その売り上げは慈善事業に寄付された)。

ツイッターの書き込みのような無形のものが売買されるためには、2つの条件が満たされなくてはならない。1つは、それが唯一無二のものであること。もう1つは、所有者を特定できることだ。

NFTでは、ブロックチェーンのテクノロジーを用いることにより、この2つの条件を満たす。ブロックチェーンのネットワークでは暗号技術が活用されているので、そこに記録された取引データを不正に変更することは極めて難しい。

ブロックチェーンはもともと、ビットコインをはじめとする仮想通貨(暗号資産)など、代替可能なデジタル資産(同じ価値のものがいくつも存在する)の取引を円滑化するために考案された。しかし次第に、非代替性のデジタル資産(唯一無二のものであることを証明できる)をつくり出す手段としても用いられるようになってきた。

NFTのほとんどは、「イーサリアム」と呼ばれるブロックチェーンの「ERC721」という規格に基づいて発行、取引されている。NFTを購入した人は、絵画の原画を保有しているのと同じように、自分が所有しているデジタルファイルのコピーがオリジナルであることの証拠を手にできる。

普及のきっかけはゲーム

NFTが広く知られるようになったきっかけは、2017年の後半にリリースされた『クリプトキティーズ』というゲームだった。これは、バーチャルなネコを購入して交配させ、独自のネコを育てるゲームだ。唯一無二のネコをつくり出し、市場で売買できるようにするために、NFTを活用したのである。

このデジタルネコがブームになって以降、NFTのゲームへの導入が本格化していった。ユーザーがゲーム内のアイテム(戦闘で用いる盾や剣など)やグッズ類をNFTの形で獲得できるようにする動きが目立つようになったのだ。

NFTが活用される場は、ゲームだけにとどまらない。NFTはNBA(全米プロバスケットボール協会)のバーチャル・トレーディングカード、音楽、デジタル画像、動画の売買にも用いられ始めている。

NFTの市場について調べているウェブサイトの「ノンファンジブル・ドットコム」によれば、米NFT市場の規模は2億5000万ドル相当。巨大な規模に膨れ上がっている仮想通貨市場に比べれば、お話にならないくらい小さな市場だ。

しかし、コンテンツ制作者にとってNFTが魅力的なツールであることには変わりない。最初にNFTを売り出すときに設定する契約次第では、その後にNFTが売買されるたびに代金の一定割合を受け取れるようにすることも可能だからだ。

NFTの市場は、今後もさらに拡大していく可能性が高い。NFTを用いることにより、デジタル資産を効率的に管理・保護できることの利点は大きい。それに、どのようなデジタル情報も簡単にNFT化することができる。

さまざまな証明ツールにも

ただし、懸念材料もある。NFTに対しては、地球環境に優しくないという批判がある。ブロックチェーン技術は、莫大なエネルギーを消費するからだ。例えば、イーサリアム上でNFTの取引が1回行われるたびに、アメリカの平均的な家庭2世帯の1日の電力消費量に匹敵する電力が用いられる。

現在のブロックチェーン・ネットワークのほとんどは、「マイニング」と呼ばれる作業によってセキュリティーを確保している。マイニングには大量のコンピューター処理能力が必要とされるので、膨大な量の電力が消費されるのだ。

それでも、この点に関して明るい兆しも見えている。イーサリアムのテクノロジーは今も進化の途上にあり、必要とされるコンピューター処理能力は少なくなりつつある。それに、「カルダノ」という新しいブロックチェーン技術のように、そもそも電力消費量を少なく抑える前提で開発されたテクノロジーも登場し始めている。

差し当たりNFTの未来は、環境に優しいブロックチェーン技術の開発がどのくらい速く進むかに大きく左右されるのかもしれない。地球温暖化に強い危機感を抱くアーティストの中には、環境への悪影響を懸念してNFTに否定的な立場を取っている人たちもいるのだ。

現在のNFT狂騒曲が長続きするにせよ、短命で終わるにせよ、NFTが既に、デジタル経済に向けたイノベーションの潮流を加速させたことは間違いない。

近年、人々はますます「暗号経済」に前向きになっていて、新しいビジネスの可能性をつくり出すために短期のリスクを受け入れるようになってきている。最近のNFTブームは、図らずもそのことを浮き彫りにした。

今後も、アートやゲームはNFT市場の主力分野の1つであり続け、向こう数年の間でこの分野はさらに成熟していくだろう。ただ、NFTの利用はそれ以外の分野にも拡大していきそうだ。

NFTは、商標や特許などの権利の証明、スキルの認定や研修の履修証明などを行う上でも極めて強力な手段になる可能性を持っている。もしかすると、デジタルアート作品の取引とは比べ物にならないくらいさまざまな分野で、NFTが活発に用いられる時代がいずれやって来るかもしれない。

The Conversation

Dragan Boscovic, Research Professor of Computing, Informatics and Decision Systems Engineering, Arizona State University

This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:米移民の「聖域」でなくなった教会、拘束恐

ワールド

トランプ氏、NATOにロシア産原油購入停止要求 対

ワールド

中国が首脳会談要請、貿易・麻薬巡る隔たりで米は未回

ワールド

アングル:インドでリアルマネーゲーム規制、ユーザー
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人に共通する特徴とは?
  • 2
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェイン・ジョンソンの、あまりの「激やせぶり」にネット騒然
  • 3
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる」飲み物はどれ?
  • 4
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 5
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 6
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 7
    【クイズ】世界で最も「火山が多い国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 9
    村上春樹は「どの作品」から読むのが正解? 最初の1…
  • 10
    腹斜筋が「発火する」自重トレーニングとは?...硬く…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 5
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 6
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 7
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 6
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 7
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 10
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中