最新記事

投資

問題の米投資会社アルケゴスに深入りした野村HD フアン氏復活に賭けた事情とは?

2021年4月5日(月)18時23分

かつて米投資家のビル・フアン氏は、不正取引が発覚し有力ヘッジファンドの閉鎖に追い込まれた後、ウォール街で再起するチャンスをうかがっていた。写真は野村証券のロゴ。都内で2016年11月撮影(2021年 ロイター/Toru Hanai)

かつて米投資家のビル・フアン氏は、不正取引が発覚し有力ヘッジファンドの閉鎖に追い込まれた後、ウォール街で再起するチャンスをうかがっていた。そこに手を差し伸べたのが、野村ホールディングスだった。

フアン氏のかつての「タイガー・アジア・マネジメント」は、中国株を巡るインサイダー取引で米国と香港の規制当局から処罰対象になり、2012年に閉鎖した。このタイガー時代から野村はフアン氏と関係があった。

事情に詳しい関係者の1人によると、フアン氏がファミリーオフィスのアルケゴス・キャピタル・マネジメントを立ち上げた当初は、野村も他の銀行と同様、取引再開に踏み出さなかった。ただ米国やアジアのハイテク、メディアなどの株式に巨額の投資をしようとするフアン氏の意欲の大きさは、取引相手として無視するにはあまりにも抗しがたい魅力があったようだ。

フアン氏との関係が復活した状況を知る野村の元従業員によると、当時の社内の雰囲気は「彼らは相応の罰金を支払い、問題は全て解決した。そしてビジネスに積極的になっている。大丈夫だ」といった調子だった。それでも野村の東京本社の経営陣がフアン氏との関係再開を承認したのは16年ごろと、やや時間はかかったという。しかし、2人の元従業員によると、いったん認めた後は取引が拡大し、アルケゴスは野村の米国事業で、収益性が10本の指に入るほど高い顧客になった。

野村の米国広報担当者はファン氏と同社との関係についてコメントを控えている。ファン氏もアルケゴスもコメントの要請に応じていない。

フアン氏はうまみのある取引関係を期待した野村に気に入られ、ウォール街の舞台に返り咲いた。その背景を取材して見えてきたのは、米国という世界でも最激戦の金融資本市場で野村が事業を拡大するため、いかに大きなリスクを引き受ける態勢を整えたかだ。

ロイターは10人余りに取材した。フアン氏やアルケゴスについて知っている、もしくは彼らとウォール街との関係を知っている人たちで、野村とアルケゴスとの取引に詳しい2人も含まれる。

そうした野村にとって、フアン氏やアルケゴスとの関係を強化したことが大変な誤算だったと分かったのが3月下旬、米メディア大手バイアコムの株価が急落した時だった。アルケゴスはバイアコム株に対して高いレバレッジを効かせたポジションを構築していたため、金融機関からリスク量増大に見合うだけの相当規模のマージンコール(追加証拠金差し入れ要求)に直面したのだ。

フアン氏の取引資金の調達を助けていたゴールドマン・サックスやモルガン・スタンレーなどの金融機関は、当初、関係する自分たちのポジションの巻き戻しを自重することを検討した。しかし、フアン氏のポジションを支えていた株式銘柄の下げが続いたことから、金融機関は損切りに動いた。保有株を急いで売り始めたのだ。そうした結果、クレディ・スイスと野村がそれぞれ数十億ドル規模の損失に直面している。

フアン氏の2つの顔

ウォール街のバンカーが描写するフアン氏の人となりは、堅実で物腰の柔らかい人物だ。結婚して子どがいて、同氏を知る市場関係者たちによれば、派手で浮世離れした暮らしをしているようにはとても見えない。フアン氏自身もキリスト教の敬けんな信仰心に強く影響を受けていると話していた。同氏の住居はニューヨーク市郊外のニュージャージー州テナフライにあり、不動産情報サイトによると、資産価値は310万ドル(約3億4200万円)ほどだ。大富豪となっている他の多くのファンドマネジャーに比べれば、つつましやかと言える。

ところが投資家としてのフアン氏の行動は、対照的に「超アグレッシブ」で「信じられないほど進んで大胆に振る舞う男とみなされる」と、同氏の経歴を知るあるヘッジファンド投資家は説明する。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

7月企業向けサービス価格、前年比2.9%上昇 前月

ワールド

米政権、EUデジタルサービス法関係当局者に制裁検討

ワールド

米商務省、前政権の半導体研究資金最大74億ドルを傘

ビジネス

低水準の中立金利、データが継続示唆=NY連銀総裁
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:健康長寿の筋トレ入門
特集:健康長寿の筋トレ入門
2025年9月 2日号(8/26発売)

「何歳から始めても遅すぎることはない」――長寿時代の今こそ筋力の大切さを見直す時

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット民が「塩素かぶれ」じゃないと見抜いたワケ
  • 2
    皮膚の内側に虫がいるの? 投稿された「奇妙な斑点」の正体...医師が回答した「人獣共通感染症」とは
  • 3
    飛行機内で隣の客が「最悪」のマナー違反、「体を密着させ...」 女性客が投稿した写真に批判殺到
  • 4
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家の…
  • 5
    なぜ筋トレは「自重トレーニング」一択なのか?...筋…
  • 6
    顔面が「異様な突起」に覆われたリス...「触手の生え…
  • 7
    アメリカの農地に「中国のソーラーパネルは要らない…
  • 8
    【写真特集】「世界最大の湖」カスピ海が縮んでいく…
  • 9
    「ゴッホ展 家族がつないだ画家の夢」(東京会場) …
  • 10
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 1
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 2
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに感染、最悪の場合死亡も
  • 3
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人」だった...母親によるビフォーアフター画像にSNS驚愕
  • 4
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家の…
  • 5
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 6
    中国で「妊娠ロボット」発売か――妊娠期間も含め「自…
  • 7
    皮膚の内側に虫がいるの? 投稿された「奇妙な斑点」…
  • 8
    なぜ筋トレは「自重トレーニング」一択なのか?...筋…
  • 9
    飛行機内で隣の客が「最悪」のマナー違反、「体を密…
  • 10
    20代で「統合失調症」と診断された女性...「自分は精…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 7
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 8
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 9
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 10
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中