最新記事

2021年に始める 投資超入門

そしてアメリカ経済の「回復」が始まる

LOOKING PAST TRUMP, LOOKING PAST THE VIRUS

2021年1月9日(土)12時15分
ダニエル・グロス(ビジネスライター)

業種によっては、回復期の到来まで生き延びられなかった企業も多い。全米レストラン協会の2020年9月の報告では、同年3月以降に全米で約10万軒の飲食店が長期休業または閉店に追い込まれた。

スポーツ用品店、百貨店、小さな食品スーパーなどでは、破産申請後に清算を選んだところが多い。将来の再建を思い描くこともできなかったからだ。

トランプ以後の政治にも、まだ不透明感が漂う。当座の問題は、1月5日に行われるジョージア州の上院選決選投票の行方だ。争われるのは2議席。勢いに乗る民主党が2議席とも確保すれば、上院でも民主党は事実上の過半数を獲得できる。(編集部注:1月5日、民主党は勝利し、2議席とも確保した)

そうなれば思いどおりに法案を通せるから、失業者の救済も医療機関への支援も州政府や自治体への財政支援も、さらにはインフラ更新や医療制度の充実、再生可能エネルギーへの新規投資も進むだろう。

magSR20210109lookingpast-4.jpg

回復期の到来まで生き延びられず、息絶えた飲食店も多い EDUARDO MUNOZ ALVAREZ-VIEW PRESS-CORBIS/GETTY IMAGE

環境投資で株式市場も動く

こうした政策は、いずれも景気回復に拍車を掛ける。ただし決選投票で共和党が1議席でも勝利し上院の多数を維持した場合は、財政規律を口実にして歳出増加に反対し、予算の膨張に抵抗する可能性がある。

いずれにせよ、アメリカがトランプ以後の新しい時代に入るのは既定事実だ。共和党の抵抗があっても、バイデン政権は力強い経済成長に向けた政策を実行するだろう。例えば学生ローンの返済免除策。家賃も払えない大卒の若年層にとっては大きな救いとなるに違いない。

貿易面でも、良好な国際関係の再構築に向けた合理的で一貫した取り組みが期待される。バイデン自身には過去に保護主義に傾いた時期もあるが、トランプに比べればずっと自由貿易を支持している。貿易障壁を緩和し、各国との摩擦を減らそうと努める可能性が高い。

最も大きな変化が期待できるのは環境政策、とりわけ脱炭素化に向けた取り組みだ。バイデンは既に、アメリカは温暖化ガス排出量を削減するパリ協定に復帰すると明言している。

また環境保護局だけでなく、エネルギー省や財務省などの主要官庁も巻き込んで政策転換を進めるから、脱石油や省エネ、クリーン・エネルギーの普及に向けた税制改革なども進むと思われる。

そうした変化が経済と株式市場に及ぼす影響は大きい。現に電気自動車専業のテスラなどの株価は政府の支援を見越して高騰。カリフォルニア州の厳しい排ガス規制を覆そうとするトランプ政権の訴訟を支持していた自動車最大手ゼネラル・モーターズは支持を撤回し、2025年末までに電気自動車開発に270億ドルを投じると発表している。

ともかくも、最悪だけれど忘れ難い1年は過ぎた。だから今は楽観的になっていい。ただし油断は禁物だ。コロナの危機も国内の深刻な政治的分断も終わってはいない。どちらも危険で、先は見通せない。それが現実。

そう思えば、2021年の年明けは、ある意味で1年前の今と似ていなくもないが。

<2021年1月12日号「2021年に始める 投資超入門」特集より>

20240514issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2024年5月14日号(5月8日発売)は「岸田のホンネ」特集。金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口……岸田文雄首相が本誌単独取材で語った「転換点の日本」

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米インフレ、目標上回る水準で停滞も FRB当局者が

ビジネス

再送-米マイクロソフトがXbox開発スタジオを一部

ビジネス

介入の有無、予見を与えるため発言控える=鈴木財務相

ワールド

バイデン氏、大学卒業式の平和的抗議を歓迎
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    「自然は残酷だ...」動物園でクマがカモの親子を捕食...止めようと叫ぶ子どもたち

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    「真の脅威」は中国の大きすぎる「その野心」

  • 5

    デモを強制排除した米名門コロンビア大学の無分別...…

  • 6

    いま買うべきは日本株か、アメリカ株か? 4つの「グ…

  • 7

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 8

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 9

    中国軍機がオーストラリア軍ヘリを妨害 豪国防相「…

  • 10

    翼が生えた「天使」のような形に、トゲだらけの体表.…

  • 1

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 2

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 3

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 4

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 5

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 6

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 7

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 8

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 9

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 10

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中