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コロナ禍で経営危機の航空業界、ワクチン大量空輸の恩恵

2020年12月10日(木)12時21分

新型コロナウイルスの感染拡大により打撃を受けている航空会社が、今後始まる大規模なワクチン接種で重要な役割を果たすべく準備を進めている。写真は4日、フィラデルフィアの空港に駐機中のアメリカン航空の貨物機(2020年 ロイター/Rachel Wisniewski)

新型コロナウイルスの感染拡大により打撃を受けている航空会社が、今後始まる大規模なワクチン接種で重要な役割を果たすべく準備を進めている。空輸需要が直ちに高まることが約束されているだけでなく、航空業界の回復と生き残りも約束するからだ。

コロナ禍に苦しむ広範な地域へのワクチン配備は、製薬会社や物流会社、政府や国際機関にとって大きな挑戦だ。航空会社も同様で、ワクチン空輸は容易なことではない。

それでも専門家は、こうした遠大なワクチン配布が、計画に関与する航空業界の危機的な損失を軽減する助けになり、貨物便の価格や収入を支えたり、運航ルートを復活させたりする上で恩恵を新たにもたらすと指摘する。

世界保健機関(WHO)の予防接種責任者のケート・オブライエン氏は最近、ワクチン接種の大変さをエベレスト登山に例えて、こうコメントした。

記録的な早さでワクチンを開発するのは実は簡単な部類に入り、「たとえばエベレストでベースキャンプを設営するのに等しい」。一方で「今回のようなワクチンを届けること、社会共同体がワクチンを信頼すること、ワクチンが受け入れられ、人々への適切な回数の接種を確実にすることは、エベレスト山頂を登り切るのに匹敵する苦労だ」。

英国が初めて接種を始めようとしている米ファイザーとドイツのビオンテックのワクチンは、マイナス70度以下で保管する必要がある。モデルナのワクチンの接種も近いとみられるが、マイナス20度で保管しなくてはならない。

ここで大きな役割を担うのが航空便の計画調整の専門担当者や、ドイツのルフトハンザ航空、仏エールフランス、オランダのKLMオランダ航空、香港のキャセイ・パシフィック航空といった、大きな貨物部門を持つ航空会社だ。こうした業者はしばしば、米UPSやフェデックス、ドイツのDHLなどの貨物取扱業者や集荷業者と請負契約をしている。

新型コロナで長距離の旅客需要が急減し打撃を受けているカタール航空やエミレーツ航空、トルコ航空も自国の巨大なハブ機能を活用できる。トルコ航空は中国のシノバックが開発したワクチンのブラジル向け空輸を開始しており、他の航空会社と同様、超低温輸送の収容能力や保管設備を増強している。

数少ない明るい分野

キャセイ航空の商用部門責任者、ロナルド・ラム氏は最近、アナリストらに対し、ワクチン空輸について、収益面での恩恵を数字化するのは難しいとした上で、「輸送を通じた直接のプラス効果と、貨物需要全般の増加の両面があるだろう」と指摘した。

貨物は既に明るい光が差している分野だ。航空会社の多くは今年、全体には記録的な赤字に沈んでいるにもかかわらず、貨物事業では未曽有の利益を上げている。

コロナ禍前は、世界の貨物便の半分は総数で約2000機の貨物専用機で運ばれ、残りの輸送はジェット旅客機に依存していた。そのため、コロナ対策で各地でロックダウン(都市封鎖)が実施され、航空便が次々停止になると貨物便料金は高騰。これが航空会社のわずかに残った旅客便ルートの維持を助け、さらなる損失拡大を防いだ。国際航空運送協会(IATA)によると今年の貨物輸送は価格や収益が30%上昇し、売上高全体に占める貨物の割合は36%と、3倍に膨らむ見通しだ。

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