最新記事

日本経済

アベノミクス突然の幕切れ 株価高揚の8年、財政再建は積み残し

2020年8月28日(金)19時23分

2012年の第2次内閣発足以降、経済最優先を掲げてアベノミクスを推進した安倍晋三政権は、突然の幕切れを迎えた。写真は都内のスクリーンで安倍首相の辞任会見の中継を見る人々(2020年 ロイター/Kim Kyung-Hoon)

2012年の第2次内閣発足以降、経済最優先を掲げてアベノミクスを推進した安倍晋三政権は、突然の幕切れを迎えた。日銀による大胆な金融緩和など「3本の矢」を掲げ、在任中に株価は3倍近くに跳ね上がった。しかし、実体経済に高揚感はなく、今では新型コロナ禍の直撃でむしろ反転リスクがくすぶる。経済成長に伴ってみられた税収増も政権終盤にかけて失速、財政赤字の解消は先送りの歴史を繰り返しそうだ。

企業の統治改革

「バイ・マイ・アベノミクス(アベノミクスは『買い』だ)」──およそ7年前の2013年9月、安倍首相はニューヨーク証券取引所(NYSE)でこう述べた。1987年の映画「ウォール街」になぞらえ、「ジャパン・イズ・バック(日本が帰ってきた)」と続け、外国人投資家を高揚させた。

安倍首相は2012年12月の第2次政権発足後、大胆な金融政策と機動的な財政政策、民間投資を換起する成長戦略の「3本の矢」を掲げ、スチュワードシップコード(機関投資家の行動指針)などの統治改革を成長戦略の柱に据えて企業の稼ぐ力を向上させた。日本企業の収益改善期待から株が買われ、海外勢による日本株保有比率は31.7%と、14年度末に過去最高となった。

スチュワードシップコードは、リーマン危機時に企業への監視が不十分だったとの反省から10年に策定された英国版を参考にした。今年7月までに年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)をはじめとする285機関が受け入れを表明し、現在でも「企業価値向上の礎になった」(金融機関幹部)との評価が多い。

14年10月のGPIFの運用見直しでは、焦点だった日本株比率について「19%とする厚生労働省のプランを一蹴し、20%超とすることにこだわった」(当時を知る閣僚経験者)。年金基金による株式運用の倍増に併せ、安倍官邸が主導した日銀の指数連動型上場投資信託(ETF)の買い増しは高水準で推移し、政府内には「これで株価が底割れすることはなくなった」(経済官庁幹部)との声がある。

低い潜在成長率

もっとも、株式市場の上昇ほど景気拡大の実感は国内に広がらなかった。格差拡大も指摘され、実体面からアベノミクス効果を疑問視する声は根強い。

内閣府によると、日本経済の実力を示す第2次内閣後の潜在成長率は1%弱と低位のまま推移。最近は一段と失速感がある。18年の成長率は実質0.3%、19年は0%にとどまっている。

背景には、イノベーションの成果などを反映した「全要素生産性」が振るわなかったこともある。20年に入ってからは、消費増税やコロナ感染の影響により2四半期連続でマイナス成長となっている。

元日銀理事の早川英男氏は、成長戦略の看板が次々と掛け変わり、潜在成長率の引き上げを実現できなかったと振り返る。

経済財政諮問会議のもとに設置した「選択する未来2.0」の翁百合座長(日本総研理事長)は今年7月、西村康稔経済再生担当相に「総じてデジタル化を本気で『選択』してきたとは評価できない。人材活用のあり方にも課題が多い」とする報告書を提出し、政府に対応を促した。

オンラインを使った診療や教育など、日本経済のデジタル化が進んでいないこともコロナ禍で露呈した。「アベノミクスの『裏の失敗』はデジタル化の遅れだ。今回の危機であらためて浮き彫りとなった」と、大和証券の岩下真理チーフマーケットエコノミストは指摘する。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

冷戦時代の余剰プルトニウムを原発燃料に、トランプ米

ワールド

再送-北朝鮮、韓国が軍事境界線付近で警告射撃を行っ

ビジネス

ヤゲオ、芝浦電子へのTOB価格を7130円に再引き

ワールド

インテル、米政府による10%株式取得に合意=トラン
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:台湾有事 そのとき世界は、日本は
特集:台湾有事 そのとき世界は、日本は
2025年8月26日号(8/19発売)

中国の圧力とアメリカの「変心」に危機感。東アジア最大のリスクを考える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 2
    なぜ筋トレは「自重トレーニング」一択なのか?...筋肉は「神経の従者」だった
  • 3
    一体なぜ? 66年前に死んだ「兄の遺体」が南極大陸で見つかった...あるイギリス人がたどった「数奇な運命」
  • 4
    【写真特集】「世界最大の湖」カスピ海が縮んでいく…
  • 5
    『ジョン・ウィック』はただのアクション映画ではな…
  • 6
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 7
    中国で「妊娠ロボット」発売か――妊娠期間も含め「自…
  • 8
    顔面が「異様な突起」に覆われたリス...「触手の生え…
  • 9
    これぞ「天才の発想」...スーツケース片手に長い階段…
  • 10
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家の…
  • 1
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 2
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに感染、最悪の場合死亡も
  • 3
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人」だった...母親によるビフォーアフター画像にSNS驚愕
  • 4
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家の…
  • 5
    中国で「妊娠ロボット」発売か――妊娠期間も含め「自…
  • 6
    20代で「統合失調症」と診断された女性...「自分は精…
  • 7
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コ…
  • 8
    「このクマ、絶対爆笑してる」水槽の前に立つ女の子…
  • 9
    なぜ筋トレは「自重トレーニング」一択なのか?...筋…
  • 10
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 7
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 8
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 9
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 10
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中