最新記事

自動車

ハンズフリー化進む「自動運転」 安全や性能基準ないまま開発レース加速

2020年7月25日(土)14時24分

ここ数十年で自動車技術は大きな変革が進む一方で、従うべき安全性や性能に関する基準が存在しない。写真は「ハンズフリー」技術を搭載するゼネラル・モーターズ(GM)キャデラックのSUV「エスカレード」。(2020年 GM配布写真/ロイター)

「オートパイロット」、「プロパイロット」、「コパイロット」──。自動車メーカーがハンズフリー(手放し)運転を支援する新たなシステムに与えた名称はさまざまだ。だが、ここ数十年で自動車技術は大きな変革が進む一方で、従うべき安全性や性能に関する基準が存在しない。

複数の自動車産業幹部によれば、テスラの成功に刺激され、自動運転の研究に投じた数十億ドルの費用の回収を始めるため、自動車メーカー各社は、高速道路上での巡航走行など日常的な運転を自動化し、5年以内に広く普及させる計画を加速させつつある。

従来の自動車メーカーの大半は、最近まで、長時間にわたるハンズフリー運転を可能にすることに抵抗感を抱いていた。製造物責任を問われることを懸念したためだ。だが、今やハンズフリー運転システムは、自動車メーカーや、アプティブなどの部品メーカーが切実に求めている新たな収益源となっている。ハンズフリー運転機能が他の有料オプションと一体化されるとなれば、なおさらである。

英調査会社のIHSマークイットで首席アナリストを務めるジェレミー・カールソン氏は「消費者が追加の出費を、それも場合によってはかなりの金額をいとわないのは、厳密に安全性にフォーカスした先進技術・性能よりも、利便性を志向しているからだ」と語る。

信頼性への懸念に対処するため、一部の自動車メーカーは、車内にカメラを装着し、警告システムを追加することで、ドライバーが注意を維持し、いざというときには人間によって操縦を引き継げるように配慮している。

規制当局も対応は後手に

だが、批判的な人々は、高速道路での運転、駐車手順、渋滞中の運転を自動化する技術は規制のすき間を縫って展開されており、自動車業界全体にわたる基準や共通技術がないため、こうしたシステムに委ねても安全なのか混乱が生じていると主張する。

米運輸省道路交通安全局(NHTSA)はロイターに対する文書での回答のなかで、ハンズフリー運転技術については依然として調査・データ収集を続けていると述べており、こうした技術は「十分に成熟していない」ため、公式の連邦基準を求めるのは時期尚早であるとしている。

元NHTSA局長のマーク・ローズカインド氏は、連邦レベルの基準が必要になる前に、自動車産業において同技術の開発をもっと進める必要があるかもしれないと述べつつ、消費者にとって分かりにくさが生じていることを認める。

「自分がどんな技術を手にしているのか、それが実際にどのように機能するのか、人々が分かっていないとすれば、それは安全性の点で問題だ」と、ローズカインド氏は言う。同氏は、自動運転技術を手掛けるスタートアップ企業、ズークスで安全性に関する技術革新の最高責任者である。ズークスはアマゾンに買収されることが決まっている。

消費者団体の米自動車安全センター代表のジェーソン・レビン氏は、NHTSAが最低限の性能基準を策定すべきだと語る。「その機能が何を意図したものか消費者が知っているとしても、そもそも宣伝通りの性能を発揮するかどうか、確かめるための基準すら存在しない」と同氏は言う。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

香港の高層複合住宅で大規模火災、13人死亡 逃げ遅

ビジネス

中国万科の社債急落、政府が債務再編検討を指示と報道

ワールド

ウクライナ和平近いとの判断は時期尚早=ロシア大統領

ビジネス

ドル建て業務展開のユーロ圏銀行、バッファー積み増し
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 2
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 3
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ成長株へ転生できたのか
  • 4
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後…
  • 5
    7歳の娘の「スマホの検索履歴」で見つかった「衝撃の…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 9
    放置されていた、恐竜の「ゲロ」の化石...そこに眠っ…
  • 10
    ミッキーマウスの著作権は切れている...それでも企業…
  • 1
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 2
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 3
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 4
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 7
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 8
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 9
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 10
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中