最新記事

セキュリティ

イギリス、ファーウェイ5G製品排除へ 限定容認から一転、中国は反発

2020年7月15日(水)10時00分

英国のジョンソン首相は14日、中国通信機器大手の華為技術(ファーウェイ)の製品を第5世代(5G)移動通信システムから2027年までに完全に排除すると発表した。1月撮影(2020年 ロイター/Toby Melville)

英国のジョンソン首相は14日、中国通信機器大手の華為技術(ファーウェイ)[HWT.UL]の製品を第5世代(5G)移動通信システムから2027年までに完全に排除すると発表した。当初は同社の限定的な参入を容認する姿勢だったが、方針転換した。

デジタル・文化・メディア・スポーツ相のダウデン氏は、年末以降、通信事業者によるファーウェイの5G製品購入は違法行為に当たるとした上で、5Gの導入は2年から3年遅れ、最大20億ポンド(25億ドル)の追加費用が発生すると明らかにした。

米国は安全保障上の理由でファーウェイ製品を5G通信網から締め出すよう繰り返し要請していた。また香港への統制強化や新型コロナウイルスを巡る対応など、中国政府に対する不信感も今回の決定に影響したもようだ。

ファーウェイは英国政府の決定に失望したと表明。決定は政治的なもので米国の通商政策が関係しており、安全保障が理由ではないと批判した。さらに、英国の携帯電話業界の発展に支障をきたし、デジタル化の流れを遅らせかねないとし、考え直すよう求めた。

駐英中国大使の劉暁明氏は「決定は残念であり間違っている」と非難。「英国が他の外国企業にも公正で差別のない商取引環境を提供できるのか疑わしくなった」と述べた。

米商務省は5月、ファーウェイに対する半導体輸出規制の強化を発表。輸出規則を変更し、すでに禁輸措置対象に指定されている同社が米国の技術やソフトを利用した半導体を間接的に取得できないようにするとした。

ダウデン氏は、英国の諜報機関、政府通信本部(GCHQ)の下部組織である国家サイバーセキュリティセンター(NCSC)が閣僚らに対し、米国の新たな制裁を受けてファーウェイ製品の安定供給はもはや保証できない旨を伝えたとした。

通信各社は固定光ファイバーブロードバンド通信分野でも向こう2年以内にファーウェイ製品の使用を停止するよう求められる。ダウデン氏は「これは簡単な決断ではなかったが、英国の通信網や国家安全保障、さらには経済にとって、今ものちも正しい判断になる」と強調した上で「次の選挙までに、我が国の5G通信網からファーウェイの機器を完全に排除するための不可逆的な道筋を法律により実施することになる」と述べた。

5Gの通信速度は現在の100倍程度ともいわれている。データの高速化や容量の増加により、5Gは「経済の神経系」として世界的な金融フローからエネルギー、防衛、運輸などの重要インフラに至るまで、あらゆるデータを運ぶことが期待される。

ダウデン氏は、5G通信網の構築に向け、同盟国の企業と協力してファーウェイに対抗するグループの結成に取り組んでいると表明。具体的にはフィンランドのノキア、スウェーデンのエリクソン 、韓国のサムスン電子<005930.KS>、NEC<6701.T>を例に挙げた。

ノキアは、英国でファーウェイの代替として製品供給を行う用意があると表明。またエリクソンは、英国で5G投資の遅れの原因だった不確実性が払拭されたとし、業界が一丸となって世界水準の5G通信網構築に取り組む時が来たと述べた。

英王立防衛安全保障研究所(RUSI)のアナリストらは「ファーウェイを実質的に亡き者にするという米国の断固たる戦略により、同社は中長期的に信頼性の高いサプライヤーとは見なされなくなる可能性がある」と指摘。また「5Gは西側諸国の中国依存を示す一例にすぎず、英国が技術面で中国と縁を切るというのなら、西側の政府や業界がまとまって真剣に対応する必要がある」とした。

オブライエン米大統領補佐官(国家安全保障担当)は、ファーウェイを含め、中国共産党につながる信頼性のない企業が国家安全保障への脅威になるとのコンセンサスが強まっていると指摘した。

[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2020トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます


【関連記事】
・中国・長江流域、豪雨で氾濫警報 三峡ダムは警戒水位3.5m超える
・巨大クルーズ船の密室で横行するレイプ
・新型コロナの起源は7年前の中国雲南省の銅山か、武漢研究所が保管
・インドネシア、地元TV局スタッフが殴打・刺殺され遺体放置 謎だらけの事件にメディア騒然


20200721issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年7月21日号(7月14日発売)は「台湾の力量」特集。コロナ対策で世界を驚かせ、中国の圧力に孤軍奮闘。外交・ITで存在感を増す台湾の実力と展望は? PLUS デジタル担当大臣オードリー・タンの真価。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米GDP、第1四半期は+1.6%に鈍化 2年ぶり低

ビジネス

ロイターネクスト:米第1四半期GDPは上方修正の可

ワールド

プーチン氏、5月に訪中 習氏と会談か 5期目大統領

ワールド

仏大統領、欧州防衛の強化求める 「滅亡のリスク」
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP非アイドル系の来日公演

  • 3

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗衣氏への名誉棄損に対する賠償命令

  • 4

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 5

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 6

    未婚中高年男性の死亡率は、既婚男性の2.8倍も高い

  • 7

    やっと本気を出した米英から追加支援でウクライナに…

  • 8

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 9

    自民が下野する政権交代は再現されるか

  • 10

    ワニが16歳少年を襲い殺害...遺体発見の「おぞましい…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこ…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 9

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中