最新記事

ポストコロナを生き抜く 日本への提言

スマホは使うがパソコンは苦手──コロナ禍で露呈した日本の労働力の弱点

BEHIND THE LOW PRODUCTIVITY

2020年4月28日(火)18時10分
マルガリータ・エステベス・アベ(米シラキュース大学准教授)

ILLUSTRAION BY AJIJCHAN/ISTOCK

<日本は新型コロナウイルスの危機を、労働生産性の向上を促すカンフル剤とすべきだ――。本誌「ポストコロナを生き抜く 日本への提言」特集より>

かつての日本は、ハイテクの国であった。ところが現在ではIT化が遅れ、労働生産性もイタリアやスペインといった南欧諸国より低い。
2020050512issue_cover_200.png
日本は高齢化による若年男性労働者数の減少を高齢者と既婚女性のパート就業率を高めることで対処したので、労働力の質が下がり、労働生産性が落ちたという人もいる。しかし、やはり超高齢化が進むドイツは日本同様、高齢男性と既婚女性のパートタイム労働の就業率を底上げしてきたが、時間当たりの労働生産性は日本よりもずっと高い。

国際成人力調査(PIAAC)という、16歳から65歳までの労働者のスキル調査によると、日本の労働者の読解力と数的思考力は国際的にもトップレベルである。加齢による能力低下を考慮しても、国際的に非常に高いレベルを維持している。

なぜ、世界トップクラスの人的資本に恵まれている日本の労働生産性が低いのか? その理由の1つはIT化の遅れだ。日本では他の先進国に比べ、職場や自宅でコンピューターを使わない労働者が(若年労働者を含めて)非常に多い。

日本は、スマホ普及率の増加に伴ってコンピューター使用率が減少した稀有な国でもある。桜田義孝前五輪担当大臣兼サイバーセキュリティ戦略本部担当大臣が、パソコンも使わず、USBが何かも知らないことで物議を醸したが、その桜田氏もスマホは使っており、「桜田現象」は日本の現状の象徴でもある。スマホのアプリ開発で日本が世界を凌駕しているわけでもない。単に教育機関や職場のIT化が非常に遅れており、せっかくの良質な労働力の真価が発揮されていないだけだ。

オンライン授業なぜできない

新型コロナウイルスによるパンデミックへの対応を見ても、日本のIT化の遅れは顕著だ。学校閉鎖になった小中高では、オンライン授業への移行が全くなされなかった。IT化がもっと進んでいる大学でも事情は他国とかなり違う。首都圏では新学期を1カ月ほど遅らせる大学も多いが、知り合いの関係者の話によると、この期間を使ってオンライン授業への移行を準備する意味合いもあるらしい。これには衝撃を受けた。

学期中にパンデミックに対応せねばならなかった欧米の多くの大学は1週間程度でオンライン授業に移行した。もともと米国の大学では授業用のオンライン・プラットフォームが整備されており、オンライン授業への移行も既存の仕組みを利用することができ、年齢層の高い教員を含め、無事に一斉オンライン化ができた。南欧の大学でも、既存のプラットフォームと無料ソフトなどを利用して、授業を続行した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

EVポールスター、中国以外で生産加速 EU・中国の

ワールド

東南アジア4カ国からの太陽光パネルに米の関税発動要

ビジネス

午前の日経平均は反落、一時700円超安 前日の上げ

ワールド

トルコのロシア産ウラル原油輸入、3月は過去最高=L
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴らす「おばけタンパク質」の正体とは?

  • 3

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗衣氏への名誉棄損に対する賠償命令

  • 4

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 5

    マイナス金利の解除でも、円安が止まらない「当然」…

  • 6

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    ワニが16歳少年を襲い殺害...遺体発見の「おぞましい…

  • 9

    ケイティ・ペリーの「尻がまる見え」ドレスに批判殺…

  • 10

    イランのイスラエル攻撃でアラブ諸国がまさかのイス…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 5

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 6

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 7

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 8

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中