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スポーツ産業の成長が名目GDP600兆円達成への鍵

2020年4月15日(水)12時05分
藤原 光汰(ニッセイ基礎研究所)

日本はスポーツでも「食べていける」ようになる必要がある kazuhide isoe-iStock

<東京五輪が延期になっても、スポーツの成長産業化は日本再興戦略の目標達成のための10施策の1つ。その伸び代を「する」スポーツ、「観る」スポーツの両面から考察する>

*この記事は、ニッセイ基礎研究所レポート(2020年3月31日付)からの転載です。

スポーツに対する政府の取り組み

2013年9月の東京オリンピックの開催決定が契機となり、政府が主体となって、スポーツを盛んにしようとする動きが加速した。はじめに、スポーツ施策に関する国の司令塔的役割を果たす機関として、2015年10月にスポーツ庁が創設され、それまで複数の省庁に権限や予算が分かれていた「縦割り行政」の解消と、効率的な運営の実現が図られた。

その後、2016年の日本再興戦略では、初めてスポーツに関するKPIが設定された。「スポーツ市場規模(2012年:5.5兆円)を2020年までに10兆円、2025年までに15兆円に拡大することを目指す。」という目標が定められ、2019年の成長戦略まで毎年掲げられてきている。また、KPIの設定に加え、2016年の日本再興戦略では、スポーツの成長産業化が、名目GDP600兆円に向けた鍵となる10の施策の1つに指定されたことも大きなポイントである。スポーツが有する経済的価値に注目し、スポーツを成長産業へ転換させるための政策が本格的に動き出した。

「する」スポーツ、「観る」スポーツ

スポーツへの関わり方には、「する」、「観る」の形があり1、第3次産業活動指数には「する」スポーツ、「観る」スポーツの活動指数がある2。また、全産業活動指数は「供給面からみたGDP」とも言われ、約7割が第3次産業活動指数で構成される。全産業活動指数における「する」スポーツのウエイトは0.4%、「観る」スポーツは0.3%である。このウエイトと、国民経済計算の名目GDPを用いて2012年のスポーツ産業の規模を試算すると、「する」スポーツが2.2兆円、「観る」スポーツが1.5兆円、合計3.7兆円となった。これは、政府の成長戦略に記載されている2012年の市場規模の5.5兆円の7割弱にあたる。残り3割強は、小売業や観光業などのその他の関連サービスへの経済波及効果の規模であると考えることができる。

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ここで、両者の推移を比較すると、「する」スポーツの伸びは「観る」スポーツに劣後している(図表1)。「観る」スポーツの規模は東日本大震災の発生した2011年を底として拡大しており、第3次産業活動指数を上回る伸びとなっている一方、「する」スポーツは横ばい圏での推移にとどまっており、第3次産業活動指数の伸びも下回っている。

――――――――――
1 「する」「観る」に加え、「支える」という立場があるが、経済活動に及ぼす規模の小ささから本稿では言及しないことを予めお断りしたい。
2 第3次産業活動指数における「スポーツ施設提供業」が「する」スポーツ、「プロスポーツ(スポーツ系興行団)」が「観る」スポーツの活動指数にあたる。「スポーツ施設提供業」はゴルフ場、ゴルフ練習場、ボウリング場、フィットネスクラブ、「プロスポーツ(スポーツ系興行団)」は相撲、ボクシング、プロ野球、サッカー、ゴルフから成る。

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