最新記事

大規模イベント

東京五輪に不透明感 小池知事「中止はまずあり得ない」と言うも動揺するスポンサー企業

2020年3月12日(木)16時00分

新型コロナウイルスの世界的な感染拡大が本格化し、7月からの東京五輪・パラリンク開催に不透明感が漂い始めた。写真は東京五輪のロゴ。都内で11日撮影(2020年 ロイター/Issei Kato)

新型コロナウイルスの世界的な感染拡大が本格化し、7月からの東京五輪・パラリンク開催に不透明感が漂い始めた。国際オリンピック委員会(IOC)をはじめ、主催者側は中止も延期もないと強く主張しているが、多額の協賛金を支払う五輪のスポンサー企業の間には動揺がみられる。

主催者側とスポンサー企業は先週、非公式に会合を開いて準備状況を話し合った。出席した関係者によると、新型コロナの感染状況から大会の計画変更はありうるのかどうか、変更があるならそれはいつ決まるのかといった具体的な話はなかったという。

あるスポンサー企業はロイターに「懸念する人が増えているが、我々にできることは何もない」と語った。「もし4月も5月も6月も続くなら問題になるだろう。何が起きるか注視している」 。

パートナー企業と東京五輪・パラリンピック組織委員会は定期的に会合を開いており、この日は何十人もの出席者がいた。ある関係者は、「何ら決まっていない。内部はぐだぐだな状態だ」と語り、混乱している様子であることを明らかにした。

最終的な決定権はIOCのトーマス・バッハ会長にある。コカ・コーラやブリヂストン、キヤノン、トヨタ自動車、 パナソニックなどがスポンサーに名を連ね、日本企業は昔から気前が良かった。

IOCをはじめとした大会関係者はここ数週間、東京大会を予定通り行うことを強調してきた。IOCは4日、「東京五輪の成功に変わらぬ自信を持っている」と声明を発表。大会組織委員会の森喜朗会長も11日の会見で「安全で安心な五輪を進めるのがわれわれの基本的スタンスだ」と述べ、計画の変更はないと強調した。森氏は「ウイルスの影響はないとは言っていないし、あると思うが、専門家が対応を考えている」と語った。

大会期間中、日本を訪れる外国人は観客と選手を含めて60万人以上と予想されている。もし中止となれば、3300億円以上の企業協賛金と、会場建設など1兆円以上の準備費用が吹き飛ぶことになる。

インバウンド効果と五輪特需も見込まれているだけに、東京大会の成功を自身の政治遺産にしたい安倍晋三首相にとっては避けたいシナリオだ。世界保健機関(WHO)が「パンデミック(世界的大流行)」に相当すると表明した12日、安倍首相はすぐに会見し、「必要な対策は躊躇(ちゅうちょ)なく決断して実行していく。感染の広がりを抑えるために全力を尽くしていきたい」と強調した。

延期なら1─2年が現実的か


五輪の予選とテスト大会の一部は場所を変えて行ったり、延期された。本大会は7月24日に開幕予定であり、主催者が最終決定を下すまでにはまだ時間がある。

CBSスポーツで冬季大会の放送権交渉に3回関わったことがあるニール・ピルソン氏は、遅くとも5月初めには状況を見極めると予想する。「感染が縮小しているのか拡大し続けているのか分かるだろう」 と、ピルソン氏は言う。

専門家は、多くの選手が一カ所に滞在する環境で安全な大会を開催するのは難しいだろうと指摘する。「オリンピック村だけでも1万7000人─1万8000人が集まって交流する」と、米スミス大学でスポーツ経済学を専門とするエコノミストのアンドリュー・ジンバリスト氏は語る。

大会組織委員会の理事の1人、高橋治之氏はロイターの取材に、新型コロナが五輪に与えうる影響について、委員会の中でシナリオ作りを始めたことを明らかにした。

高橋氏は、今のところ何も決まっていないとしつつ、たとえ延期の必要があっても「年内の延期は難しい」とみる。高橋氏は「プロスポーツの日程は数年先まで決まっている」と指摘。「あらゆる可能性に備えて準備を始める必要がある。夏に開催できない場合、1─2年程度の延期がもっとも現実的だ」と語った。

(編集:久保信博)

[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2020トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます

【関連記事】
・一斉休校でわかった日本人のレベルの低さ
・豪でトイレットペーパーめぐって乱闘 英・独のスーパーは個数制限で買い占め防止
・スペイン、首都マドリードで新型コロナウイルス患者急増 保健当局「医療対応に限界」


20200317issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年3月17日号(3月10日発売)は「感染症 vs 人類」特集。ペスト、スペイン風邪、エボラ出血熱......。「見えない敵」との戦いの歴史に学ぶ新型コロナウイルスへの対処法。世界は、日本は、いま何をすべきか。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中ロ首脳が電話会談、イスラエルのイラン攻撃を非難

ビジネス

英中銀、政策金利据え置き 労働市場低迷とエネ価格上

ビジネス

台湾中銀、政策金利据え置き 年内の利下げ示唆せず

ビジネス

ECB、政策変更なら利下げの可能性高い=仏中銀総裁
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:コメ高騰の真犯人
特集:コメ高騰の真犯人
2025年6月24日号(6/17発売)

なぜ米価は突然上がり、これからどうなるのか? コメ高騰の原因と「犯人」を探る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越しに見た「守り神」の正体
  • 2
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 3
    イタリアにある欧州最大の活火山が10年ぶりの大噴火...世界遺産の火山がもたらした被害は?
  • 4
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 5
    「アメリカにディズニー旅行」は夢のまた夢?...ディ…
  • 6
    下品すぎる...法廷に現れた「胸元に視線集中」の過激…
  • 7
    ホルムズ海峡の封鎖は「自殺行為」?...イラン・イス…
  • 8
    マスクが「時代遅れ」と呼んだ有人戦闘機F-35は、イ…
  • 9
    【クイズ】「熱中症」は英語で何という?
  • 10
    ロシア人にとっての「最大の敵国」、意外な1位は? …
  • 1
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロットが指摘する、墜落したインド航空機の問題点
  • 2
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越しに見た「守り神」の正体
  • 3
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 4
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 5
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未…
  • 6
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?.…
  • 7
    イタリアにある欧州最大の活火山が10年ぶりの大噴火.…
  • 8
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 9
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 10
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊の瞬間を捉えた「恐怖の映像」に広がる波紋
  • 3
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 4
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 5
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 6
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 7
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 8
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 9
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
  • 10
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中