最新記事

世界経済

景気後退や弱気相場への懸念増加 全米で新型コロナウイルス拡大で

2020年3月9日(月)12時25分

新型コロナウイルスの感染拡大が世界経済や資産価格に及ぼす影響を投資家が見極めようとする中、「弱気相場」や「リセッション(景気後退)」という言葉が使われる頻度が増えつつある。写真は6日にニューヨーク証券取引所で撮影(2020年 ロイター/Andrew Kelly)

新型コロナウイルスの感染拡大が世界経済や資産価格に及ぼす影響を投資家が見極めようとする中、「弱気相場」や「リセッション(景気後退)」という言葉が使われる頻度が増えつつある。

新型ウイルスの急速な感染拡大は世界中で金融市場の大幅な変動を招いている。投資家の多くは、感染状況が今後どのような道をたどり、各国政府の対応がどこまで効果を発揮するかを巡り不透明感が強いため、経済への打撃が資産価格にどこまで織り込み済みか判断するのは難しいとしている。

ラボバンクは前週のリポートで、多くの西側諸国が当初対策を講じず、問題はないとの見解を国民に示す対応をとったのは効果的でなかったと指摘した。

米国で感染が拡大するに伴い、投資家の間では、一貫性のない政府の対応や国内の感染者数を巡る混乱、感染への不安や政府による移動制限が個人消費や経済全体に及ぼす可能性を巡って懸念が強まった。

リーダー・キャピタルのジョン・レカス最高経営責任者(CEO)兼シニアポートフォリオマネジャーは、「市場はまだ現状についていっていない。株価は今年、さらに20%程度下落するとみている」と述べ、株価にはまだ下落余地があると指摘。景気後退入りの可能性が高いとの見方も示した。

ドイツ銀行のアナリストは、新型ウイルスの感染拡大が早期に封じ込められなかった場合、S&P総合500種が直近高値から20%超下落して弱気相場入りするシナリオを想定している。同指数は6日終値時点で直近高値を8%下回った。

ドイツ銀は「株価は著しく割高な水準からやや割高な水準に下落したにすぎない」とし、「経済活動の鈍化によるマクロ経済や企業業績の成長減速の可能性はまだ株価に織り込まれていない」と分析した。

ドイツ銀はメインシナリオとして米株価が15─20%下落した後に持ち直すと予想。より悲観的なシナリオではさらに大幅な株価下落と景気後退入りを予想している。

ボラティリティーの急速な高まりは、強気相場が11年目を迎える中で起きた。S&P500が2008年の金融危機後に付けた安値は09年3月9日の676.53だった。同指数の直近高値は2月19日に付けた3393だ。

バンク・オブ・アメリカ(バンカメ)・メリルリンチはリポートで、新型ウイルスの感染拡大を「のろのろ運転の列車事故」にたとえた。「起きている出来事の重大さに市場がゆっくりと徐々に気付く」状況を指している。

トールバッケン・キャピタル・アドバイザーズのマイケル・パーブズCEOは、テクノロジーセクターは「まだ強すぎる」とし、「テクノロジー株がさらに売り込まれるまで、乗り遅れ組の売りが出尽くしたとは判断できない」と語った。

一部のアナリストは、機関投資家が為替のエクスポージャーをヘッジするために用いるクロスカレンシー・ベーシス・スワップが圧迫される可能性などを注視している。クレジット市場や企業の資金繰りにも懸念が出ている。

この先1週間には、中小企業の景況感や消費者物価指数(CPI)など、新型ウイルスの感染が広がる前の2月の米経済を映す一連の指標が発表される。

オックスフォード・エコノミクスのアナリストは、経済への最大のリスクは感染者や死者の数そのものではなく、日常生活の混乱や移動の削減、政府による制限措置などの打撃によってもたらされる可能性があると指摘した。また、年内に米国が景気後退に陥る確率を35%と予想し、1月上旬の25%から引き上げた。

(Megan Davies記者)

[ニューヨーク 8日 ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2020トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます

【関連記事】
・新型コロナウイルス感染症はいつ、どう終息するのか|ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト
・米、新型コロナウイルスによる死者19人に 感染者21人増でNY州が非常事態宣言
・韓国、新型コロナウイルス感染拡大の元凶? 信者24万人の「新天地イエス教団」とは


20200317issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年3月17日号(3月10日発売)は「感染症VS人類」特集。ペスト、スペイン風邪、エボラ出血熱......。「見えない敵」との戦いの歴史に学ぶ新型コロナウイルスへの対処法。世界は、日本は、いま何をすべきか。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

独新政権、EU財政ルールは歳出拡大計画の足かせと想

ビジネス

ヤマハ発、25年12月期の営業利益見通し据え置き 

ビジネス

ロシュ、7億ドルで米ノースカロライナ州に生産施設設

ワールド

イラン、プーチン・ロシア大統領の訪問で準備=通信社
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:2029年 火星の旅
特集:2029年 火星の旅
2025年5月20日号(5/13発売)

トランプが「2029年の火星に到着」を宣言。アメリカが「赤い惑星」に自給自足型の都市を築く日

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    心臓専門医が「絶対に食べない」と断言する「10の食品」とは?...理想は「1825年の食事」
  • 2
    カヤック中の女性がワニに襲われ死亡...現場動画に映った「殺気」
  • 3
    ゴルフ場の近隣住民に「パーキンソン病」多発...原因は農薬と地下水か?【最新研究】
  • 4
    母「iPhone買ったの!」→娘が見た「違和感の正体」に…
  • 5
    シャーロット王女の「親指グッ」が話題に...弟ルイ王…
  • 6
    「出直し」韓国大統領選で、与党の候補者選びが大分…
  • 7
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 8
    「がっかり」「私なら別れる」...マラソン大会で恋人…
  • 9
    あなたの下駄箱にも? 「高額転売」されている「一見…
  • 10
    ハーネスがお尻に...ジップラインで思い出を残そうと…
  • 1
    心臓専門医が「絶対に食べない」と断言する「10の食品」とは?...理想は「1825年の食事」
  • 2
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つの指針」とは?
  • 3
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 4
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
  • 5
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗…
  • 6
    シャーロット王女の「親指グッ」が話題に...弟ルイ王…
  • 7
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 8
    ロシア機「Su-30」が一瞬で塵に...海上ドローンで戦…
  • 9
    カヤック中の女性がワニに襲われ死亡...現場動画に映…
  • 10
    ついに発見! シルクロードを結んだ「天空の都市」..…
  • 1
    心臓専門医が「絶対に食べない」と断言する「10の食品」とは?...理想は「1825年の食事」
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの…
  • 5
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 6
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つ…
  • 7
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 10
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中