最新記事

AI時代の英語学習

すでにTOEIC960点越え、日本の第一人者に「国産」機械翻訳について聞いた

2020年2月26日(水)14時00分
高木由美子(本誌記者)

――(NICTがシステムを提供する)翻訳エンジンTexTra(テキストラ)やVoiceTra(ボイストラ。AI通訳機「ポケトーク」にもこの技術を提供)は、技術を公開すると同時に技術向上のために情報も集めているのか。

音声情報を集めている。アナウンサーのようなきれいな発音、正しい文法だけに対応するのでなく、活舌が悪かったりいい加減な話し方だったりしても音声認識機能を上げられるよう、リアルな音声データを集める。

ただし、GAFAは「コンテンツ」情報も見ている。利用者がどういうことに興味があるか、どういう単語を使っているか、を調べて広告を売るためにも情報を集めているが、NICTはシステムを向上させるためだけにデータを集めている。

――現在のところ、自動翻訳で事足りるのはどんな場面か。

生活一般のところは自動翻訳で賄える。ビジネスに関しては、交渉に使えるようになるのはあと10年後ぐらいだろう。さらに言えば、対面なら少し間違いがあっても相手の反応で分かるが、電話など(相手の反応が見えない状況)だと、今の技術ではまだ難しい。

――ニュース記事や文学作品の翻訳については、自動翻訳でできるようになるのか。

文学作品は、(自動翻訳では)永遠にできないだろう。特許や製薬などの文章は、非文学的で味もそっけもなく、正確であれば直訳でもいい。こうした文章はたくさんのデータがあれば「平均値」が出る。文学はこれとは真逆で、「平均的」ではないので永遠に自動翻訳ではできない。

新聞記事について言えば、文章の前のほうで述べたことに後半の文章が依存する。機械翻訳は1文ずつしか翻訳できないので、これを処理するのが難しい。だが、いずれコンピューターの能力が上がり、文脈処理までできるようになれば、新聞記事の翻訳も可能になるかもしれない。

――今後、自動翻訳はどの程度進化する?

データの量が多ければ、そして良いアルゴリズムがあれば、性能は上がり続ける。しばらくは、性能の限界は来ないだろう。

一方で、天気予報と同じようにたくさんのデータから明日の天気を計算しているだけなので、当たるときもあれば当たらないときもある。その程度だと思って使うのがいい。とはいえ、日常的に天気予報をある程度信用して見ているのと同じように、機械翻訳もある程度信用して使うと効率を上げることができる。

コンピューターが誤訳することを知らないで使っている人が多い。(翻訳文や通訳音声が)けっこうきれいなので(勘違いしてしまいがちだが)、たまに誤訳が入ることに注意しなければならないことを知ってもらいたい。

インタビュー後編では、自動翻訳をどのように活用すればいいか、今後はどのような英語学習が必要とされるかについて、NICTの隅田フェローについて聞いている。

20200303issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年3月3日号(2月26日発売)は「AI時代の英語学習」特集。自動翻訳(機械翻訳)はどこまで使えるのか? AI翻訳・通訳を使いこなすのに必要な英語力とは? ロッシェル・カップによる、AIも間違える「交渉英語」文例集も収録。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米肥満薬開発メッツェラ、ファイザーの100億ドル買

ワールド

米最高裁、「フードスタンプ」全額支給命令を一時差し

ワールド

アングル:国連気候会議30年、地球温暖化対策は道半

ワールド

ポートランド州兵派遣は違法、米連邦地裁が判断 政権
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 2
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216cmの男性」、前の席の女性が取った「まさかの行動」に称賛の声
  • 3
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評家たちのレビューは「一方に傾いている」
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 6
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統…
  • 7
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 8
    【銘柄】元・東芝のキオクシアHD...生成AIで急上昇し…
  • 9
    なぜユダヤ系住民の約半数まで、マムダニ氏を支持し…
  • 10
    「非人間的な人形」...数十回の整形手術を公表し、「…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 5
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 6
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 7
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 8
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統…
  • 9
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 10
    米沿岸に頻出する「海中UFO」──物理法則で説明がつか…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 8
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中