最新記事

AI時代の英語学習

英語学習は不要になる? どんな能力が必要に? 機械翻訳の第一人者に聞いた

2020年2月26日(水)14時10分
高木由美子(本誌記者)

AIの中核となる深層学習(ディープラーニング)を高並列で高速に実行できるコンピューター ©NICT

<自動翻訳をどのように活用すればいいか、今後はどのような英語学習が必要とされるか。AI通訳機「ポケトーク」にも技術を提供する情報通信研究機構(NICT)の隅田英一郎フェローにインタビューした>

自動翻訳(機械翻訳)はどの程度進み、今後はどこまで行くのか。AI翻訳にできること、できないことは。将来的に語学学習はどうあるべきなのか、AIを使いこなして英語強者になるコツは――本誌は3月3日号(2月26日発売)で、新時代の英語戦略について総力特集した。
20200303issue_cover200.jpg
本誌特集ではさまざまな専門家に取材しているが、その1人、日本の機械翻訳システム開発の第一人者で、アジア太平洋機械翻訳協会(AAMT)会長も務める国立研究開発法人「情報通信研究機構(NICT)」の隅田英一郎フェローのインタビューをここに掲載。

自動翻訳の今のレベルや、グーグル翻訳との違い、ビジネスやニュース記事の翻訳に使えるかどうかについて聞いた前編に続き、この後編では、自動翻訳をどのように活用すればいいか、今後はどのような英語学習が必要とされるかなどについて聞いた。

▼インタビュー前編:すでにTOEIC960点越え、日本の第一人者に「国産」機械翻訳について聞いた

◇ ◇ ◇

――日常やビジネスの場面は、どの程度自動翻訳に代替可能になるのか。

本当に外国語が必要な日本人は、どのくらいいるのだろうか。9割の日本人は、機械翻訳でコミュニケーションが取れればいいのではないか。

残り10%の「専門家」である科学者やエンジニア、ビジネスマンの場合は、外国語コミュニケーションにおいてクオリティーや正確性が必要となると、英語を勉強する必要がある。また、機械翻訳を利用してそれをチェックして直す、など使い方を身に着けていく必要がある。

ごく一部、1%くらいは、自ら高速で英語を話したい、機械を通すとイライラする、という人もいる。こういう人は、自分で英語を勉強すればいい。

――自動翻訳が不得意とする分野や場面は?

主語のない日本語(を補完して翻訳しなければらないとき)や、画像とセットでなければ文脈が分からない場合(バス停で「まもなく来ます」の表示など)や、どこで切っていつから訳し始めればいいか判断に迷う場面、「木漏れ日」など外国語にすると説明が必要な言葉や擬態語など。そして、文学は守備範囲外だ。

――機械翻訳のメリットは。

音声認識がネイティブ級。例えば、外国とのテレビ会議の場でも、あと5年くらいで自動翻訳システムが使用可能なレベルになる。

会議で英語を聞き取るとなると、英語にすごく集中しなければならなかったが、機械にヒアリングをまかせれば、自分で聞き取ろうと脳のエネルギーを消費する必要はない。音声合成も昔に比べればとても自然になったので、話すことも機械に任せられる。

翻訳も高性能のものが出来上がるので、それを活用して少し直す、という役割を人間がすればいい。機械は高速で、分厚いデータを任せられ、24時間365日、文句も言わずに働く。

――自動翻訳が向上していく未来を認めたくなくて、自分で一から全て語学を学ばなければ、と考える人もいるかもしれないが。

語学は楽しみなので、それはそれでいいと思う。ただ、生活やビジネスを考えたとき、それでは全体の効率が上がらない。タクシーやトラックの使用を禁止されても馬車の時代には戻れないように、技術がここまで進んだ以上、機械翻訳を使わない選択肢はない。うまいこと使うように考え方を変えなければ。

これまですごく英語を勉強してきたプロの翻訳者などでも、この技術を認め、これを使って効率を上げてもっと仕事をしようとする人もいる。流れに乗って先に行った者の勝ちだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:トランプ氏なら強制送還急拡大か、AI技術

ビジネス

アングル:ノンアル市場で「金メダル」、コロナビール

ビジネス

為替に関する既存のコミットメントを再確認=G20で

ビジネス

米国株式市場=上昇、大型ハイテク株に買い戻し 利下
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ暗殺未遂
特集:トランプ暗殺未遂
2024年7月30日号(7/23発売)

前アメリカ大統領をかすめた銃弾が11月の大統領選挙と次の世界秩序に与えた衝撃

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「習慣化の鬼」の朝日新聞記者が独学を続けられる理由【勉強法】
  • 2
    BTS・BLACKPINK不在でK-POPは冬の時代へ? アルバム販売が失速、株価半落の大手事務所も
  • 3
    【夏休み】お金を使わないのに、時間をつぶせる! 子どもの楽しい遊びアイデア5選
  • 4
    キャサリン妃の「目が泳ぐ」...ジル・バイデン大統領…
  • 5
    地球上の点で発生したCO2が、束になり成長して気象に…
  • 6
    カマラ・ハリスがトランプにとって手ごわい敵である5…
  • 7
    トランプ再選で円高は進むか?
  • 8
    拡散中のハリス副大統領「ぎこちないスピーチ映像」…
  • 9
    中国の「オーバーツーリズム」は桁違い...「万里の長…
  • 10
    「轟く爆音」と立ち上る黒煙...ロシア大規模製油所に…
  • 1
    正式指名されたトランプでも...カメラが捉えた妻メラニアにキス「避けられる」瞬間 直前には手を取り合う姿も
  • 2
    すぐ消えると思ってた...「遊び」で子供にタトゥーを入れてしまった母親の後悔 「息子は毎晩お風呂で...」
  • 3
    月に置き去りにされた数千匹の最強生物「クマムシ」、今も生きている可能性
  • 4
    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…
  • 5
    「習慣化の鬼」の朝日新聞記者が独学を続けられる理…
  • 6
    【夏休み】お金を使わないのに、時間をつぶせる! 子…
  • 7
    ブータン国王一家のモンゴル休暇が「私服姿で珍しい…
  • 8
    「失った戦車は3000台超」ロシアの戦車枯渇、旧ソ連…
  • 9
    「宇宙で最もひどい場所」はここ
  • 10
    ウクライナ南部ヘルソン、「ロシア軍陣地」を襲った…
  • 1
    中国を捨てる富裕層が世界一で過去最多、3位はインド、意外な2位は?
  • 2
    ウクライナ南部ヘルソン、「ロシア軍陣地」を襲った猛烈な「森林火災」の炎...逃げ惑う兵士たちの映像
  • 3
    ウクライナ水上ドローン、ロシア国内の「黒海艦隊」基地に突撃...猛烈な「迎撃」受ける緊迫「海戦」映像
  • 4
    ブータン国王一家のモンゴル休暇が「私服姿で珍しい…
  • 5
    正式指名されたトランプでも...カメラが捉えた妻メラ…
  • 6
    韓国が「佐渡の金山」の世界遺産登録に騒がない訳
  • 7
    すぐ消えると思ってた...「遊び」で子供にタトゥーを…
  • 8
    月に置き去りにされた数千匹の最強生物「クマムシ」…
  • 9
    メーガン妃が「王妃」として描かれる...波紋を呼ぶ「…
  • 10
    「どちらが王妃?」...カミラ王妃の妹が「そっくり過…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中