最新記事

ビジネス

「情報銀行」は日本の挽回策となるのか

2019年12月20日(金)16時20分
中村 洋介(ニッセイ基礎研究所)

消費者にデータを提供するメリットを訴求できるかが問われる metamorworks-iStock

<膨大なデータを収集・活用することで収益を上げる米中IT企業。データビジネス競争に乗り遅れた日本政府は、巨大IT企業に疑念を抱く消費者の味方となることで巻き返しを図る>

*この記事は、ニッセイ基礎研究所レポート(2019年11月8日付)からの転載です。

「情報銀行」とは

世界的なデジタル化の潮流の中、米中の巨大IT企業が圧倒的な存在感を放っている。日本はデジタル化の大きな波に乗り遅れてしまったのではないかという懸念の声は強い。データ利活用も、米中の巨大IT企業のレベルにはとても及ばない。こうした課題意識を背景に、我が国のデータ利活用を推進するための方策の1つとして検討されてきたのが「情報銀行」である。

情報銀行とは、消費者(個人)が自分のデータ(例えば、行動履歴や購買履歴のデータ)を提供し、その対価として金銭、クーポンやポイントをはじめ、お得な情報に至るまでの様々な便益を受け取れる仕組み(事業)である[図表1]。

Nissei191212_1.jpg

消費者が、データを情報銀行に提供する(預ける)。データは、アンケートのように消費者自らが入力し提供する場合もあれば、消費者が使用するサービスの運営事業者が保有するデータを提供する場合もあるだろう(例えば、スマートフォン向け健康管理アプリの事業者が保有する個人の歩行・歩数履歴データ等)。データの提供を受けた情報銀行は、消費者による意思、事前に提示した条件等に基づいて、データ利用を希望する第三者(事業者)に提供する。消費者の意に沿わないデータ提供は行われないようになっている。そして、データの提供を受けた第三者から、消費者に直接または間接的に情報銀行から便益(対価)が還元される。データ提供を受けた第三者はそのデータを活用して、その消費者個人の特性や趣味・嗜好に合わせて個別最適化されたサービスや商品を提供することに活かす、または大量のデータを取得・分析して新しい商品の開発やマーケティング戦略に活かす、といったことが考えられる。

足もと、情報銀行事業に参入を検討する企業も増えている[図表2]。

Nissei191212_2.jpg

例えば、電通系のマイデータ・インテリジェンスは、情報銀行サービス「MEY(ミー)」を提供している。そのスマートフォンアプリ(サービス)に登録すると、ユーザーのデータを活用したい企業からオファーが届く。ユーザーはデータの利用目的やその対価(返礼)を確認して、気に入ったものだけにデータを提供することが出来る。対価として、ポイントや電子マネー、お得な情報等が受け取れるという。また、三菱UFJ信託銀行が2020年4月から情報銀行サービスの提供を開始すると発表している他、実証実験に取り組んでいる企業もある。民間事業者による任意*の認定制度も出来た。(一社)日本IT団体連盟が情報銀行の認定事業を開始しており、2019年6月には三井住友信託銀行、フェリカポケットマーケティングの2社の計画が、情報銀行サービスが開始可能な状態である運営計画として認定を受けた。今後、更に認定事業者が増えていくであろう。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

スーダンの準軍事組織RSFが休戦表明 国軍は拒否

ワールド

銅相場は堅調、供給動向と米在庫を注視

ビジネス

米当局、コムキャストに罰金150万ドル 23万人超

ビジネス

赤沢経産相、ラピダス「国策として全力で取り組む」
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 2
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネディの孫」の出馬にSNS熱狂、「顔以外も完璧」との声
  • 3
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後悔しない人生後半のマネープラン
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    「搭乗禁止にすべき」 後ろの席の乗客が行った「あり…
  • 8
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 9
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 10
    「イラつく」「飛び降りたくなる」遅延する飛行機、…
  • 1
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 2
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 3
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 4
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 5
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 6
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 7
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 8
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 9
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 10
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中