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人権問題米国民、年金基金通じて中国監視カメラ企業へ意図せず投資

米国で最も規模が大きい公的年金基金の幾つかが、米政府の制裁対象になった中国の監視カメラメーカーに投資していたことが分かった。写真は上海でのハイクビジョンの展示。5月24日撮影(2019年 ロイター/Aly Song)
米国で最も規模が大きい公的年金基金の幾つかが、米政府の制裁対象になった中国の監視カメラメーカーに投資していたことが分かった。
トランプ政権は先週、中国が新疆ウイグル自治区の少数民族を弾圧していると批判し、関与しているとみられる監視カメラ世界最大手の杭州海康威視数字技術(ハイクビジョン)など8社を、商務省が輸出規制を課す「エンティティー・リスト」に追加した。
これを受け、カリフォルニア州教職員退職年金基金(カルスターズ)の広報担当者は「商務省の発表で生じた新たな事態を踏まえ、状況を見守っている」とコメントした。
カルスターズは、入手可能な最新のデータである昨年6月末時点で、直接もしくは上場投資信託(ETF)を通じてハイクビジョン株435万株を保有していた。金額にすると2400万ドル相当。
ニューヨーク州教職員退職年金基金も今年6月末にハイクビジョン株8万1802株を保有していたことが開示資料で判明している。保有規模は昨年末の2万6402株から増加した。
同基金の広報担当者は、主として運用指針としているMSCIオール・カントリー・ワールド・インデックス(ACWI)(米国除く)に連動するパッシブ運用型資産のウエート調整によってハイクビジョンを保有する形になったと説明している。
このほかフロリダ州職員退職年金基金(FRS)も、今年6月末段階でハイクビジョン株180万株を保有。広報担当者は、「全ての規制と受託者義務で定められた要件を満たすための問題に関して」、外部の運用担当者と緊密に協議しているところだと述べた。
リスク管理専門家によると、こうした公務員や教職員の受け取る年金が、制裁対象の中国企業に振り向けられるような運用規律の緩みについて、米政府当局や米国民が懸念を抱くのは間違いない。
ワシントンに拠点を置くリスクコンサルティング会社RWRアドバイザリー・グループのロジャー・ロビンソン社長は、これらの企業がインデックスファンドに採用されているので、多くの米国民は知らないうちに株主になってしまっていると指摘。指数算出会社が企業の詳しい調査をほとんど、あるいはまったく行わず、安全保障、人権といった分野で情報開示を怠る形で銘柄を大量に組み入れ、米国の投資家の資産に流れ込んでいると警鐘を鳴らした。
MSCIの場合は昨年、新興国市場指数にハイクビジョンを追加採用した。MSCIはコメントを拒否した。
ハイクビジョンとともに輸出禁止対象になった音声認識技術を手掛ける科大訊飛(アイフライテック)も、フロリダ州やニューヨーク州の公的年金とカルスターズ、カリフォルニア州職員退職年金基金(カルパース)に保有されていた。それぞれ直近の公表データが示しており、いずれもiシェアーズMSCI新興国市場ETFを通じた間接的な保有だ。
ブラックロック傘下のiシェアーズはコメントを拒否した。


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