最新記事

人権問題

米国民、年金基金通じて中国監視カメラ企業へ意図せず投資

2019年10月24日(木)15時58分

米国で最も規模が大きい公的年金基金の幾つかが、米政府の制裁対象になった中国の監視カメラメーカーに投資していたことが分かった。写真は上海でのハイクビジョンの展示。5月24日撮影(2019年 ロイター/Aly Song)

米国で最も規模が大きい公的年金基金の幾つかが、米政府の制裁対象になった中国の監視カメラメーカーに投資していたことが分かった。

トランプ政権は先週、中国が新疆ウイグル自治区の少数民族を弾圧していると批判し、関与しているとみられる監視カメラ世界最大手の杭州海康威視数字技術(ハイクビジョン)など8社を、商務省が輸出規制を課す「エンティティー・リスト」に追加した。

これを受け、カリフォルニア州教職員退職年金基金(カルスターズ)の広報担当者は「商務省の発表で生じた新たな事態を踏まえ、状況を見守っている」とコメントした。

カルスターズは、入手可能な最新のデータである昨年6月末時点で、直接もしくは上場投資信託(ETF)を通じてハイクビジョン株435万株を保有していた。金額にすると2400万ドル相当。

ニューヨーク州教職員退職年金基金も今年6月末にハイクビジョン株8万1802株を保有していたことが開示資料で判明している。保有規模は昨年末の2万6402株から増加した。

同基金の広報担当者は、主として運用指針としているMSCIオール・カントリー・ワールド・インデックス(ACWI)(米国除く)に連動するパッシブ運用型資産のウエート調整によってハイクビジョンを保有する形になったと説明している。

このほかフロリダ州職員退職年金基金(FRS)も、今年6月末段階でハイクビジョン株180万株を保有。広報担当者は、「全ての規制と受託者義務で定められた要件を満たすための問題に関して」、外部の運用担当者と緊密に協議しているところだと述べた。

リスク管理専門家によると、こうした公務員や教職員の受け取る年金が、制裁対象の中国企業に振り向けられるような運用規律の緩みについて、米政府当局や米国民が懸念を抱くのは間違いない。

ワシントンに拠点を置くリスクコンサルティング会社RWRアドバイザリー・グループのロジャー・ロビンソン社長は、これらの企業がインデックスファンドに採用されているので、多くの米国民は知らないうちに株主になってしまっていると指摘。指数算出会社が企業の詳しい調査をほとんど、あるいはまったく行わず、安全保障、人権といった分野で情報開示を怠る形で銘柄を大量に組み入れ、米国の投資家の資産に流れ込んでいると警鐘を鳴らした。

MSCIの場合は昨年、新興国市場指数にハイクビジョンを追加採用した。MSCIはコメントを拒否した。

ハイクビジョンとともに輸出禁止対象になった音声認識技術を手掛ける科大訊飛(アイフライテック)も、フロリダ州やニューヨーク州の公的年金とカルスターズ、カリフォルニア州職員退職年金基金(カルパース)に保有されていた。それぞれ直近の公表データが示しており、いずれもiシェアーズMSCI新興国市場ETFを通じた間接的な保有だ。

ブラックロック傘下のiシェアーズはコメントを拒否した。

[ボストン ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2019トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます




20191029issue_cover200.jpg
※10月23日発売号は「躍進のラグビー」特集。世界が称賛した日本の大躍進が証明する、遅れてきた人気スポーツの歴史的転換点。グローバル化を迎えたラグビーの未来と課題、そして日本の快進撃の陰の立役者は――。



今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエルがイラン再攻撃計画か、トランプ氏に説明へ

ワールド

プーチン氏のウクライナ占領目標は不変、米情報機関が

ビジネス

マスク氏資産、初の7000億ドル超え 巨額報酬認め

ワールド

米、3カ国高官会談を提案 ゼレンスキー氏「成果あれ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 2
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦い」...ドラマ化に漕ぎ着けるための「2つの秘策」とは?
  • 3
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリーズが直面した「思いがけない批判」とは?
  • 4
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 5
    「何度でも見ちゃう...」ビリー・アイリッシュ、自身…
  • 6
    70%の大学生が「孤独」、問題は高齢者より深刻...物…
  • 7
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 8
    中国最強空母「福建」の台湾海峡通過は、第一列島線…
  • 9
    ロシア、北朝鮮兵への報酬「不払い」疑惑...金正恩が…
  • 10
    週に一度のブリッジで腰痛を回避できる...椎間板を蘇…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 9
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 10
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 8
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中