最新記事

環境問題

海運業界、2050年のCO2半減に向け苦闘 高まる社会的責任

2019年10月29日(火)16時16分

高まるプレッシャー

IMOでは、船舶エンジンから二酸化炭素排出量を削減する方法として燃費を改善するため、新造船については強制的なルールを採用。

9月には、ゼロ・エミッション(二酸化炭素排出量ゼロ)の船舶・燃料を2030年までに実用化することをめざしたイニシアチブが開始された。

非営利団体CDP(旧カーボン・ディスクロージャー・プロジェクト)は6月に発表した報告書のなかで、上場している海運会社上位18社のうち、低炭素化への対応が最も進んでいる海運会社として、日本郵船、マースク、商船三井の3社を選んだ。

世界最大のコンテナ海運会社であるマースクは、2050年までに、事業活動からの二酸化炭素排出量を実質ゼロにする「カーボン・ニュートラル」を達成する目標を掲げており、保有船舶のうち約150隻の改造に過去4年間で10億ドルを投じている。

CDPの広報担当者は「こうした措置は、IMOの目標を達成するために必要な設備投資全体のごく一部にすぎない」と語る。

世界各国の専門家による委員会であるエナジー・トランジション・コミッションによる昨年の報告書によると、海運産業の全面的な脱炭素化に要するコストは2050年のGDP合計の0.2%以下、年間6000億ドル以下だ。これに対して、航空産業の完全な脱炭素化のコストはGDPの0.13%以下、年間5000億ドル以下という。

シンクタンクのロッキーマウンテン研究所のマネージング・ディレクターを務めるネッド・ハーベイ氏は、「マースクが掲げた目標は意義が大きい。世界の航空会社でも、これほどのコミットメントを示した企業はない」と語る。「金融業界は気候変動対策を真剣に考えており、対策の実現に動きつつあるし、顧客もサプライチェーンの低炭素化を求めている」という。

コンテナ海運会社として世界第2位につけるスイスのMSCは、2015年から18年にかけて、輸送トンマイルあたりの二酸化炭素排出量を13%削減した。

同社は、保有する250隻以上の船舶を改造し、スクリュープロペラや球状船首、高性能エンジンなど最新の設計を採用した。

また、二酸化炭素排出量を最小限に抑えるよう設計された世界最大のコンテナ船「MSCガルサン」など巨大新造船11隻を配備している。

「2030年以降について、この業界のコンテナ船団や海運セクター全体を見渡した場合、二酸化炭素その他の温室効果ガスに関する将来的な目標を達成するには、燃料及び推進技術において何らかの技術革新が必要になるだろう」とMSCグループのバド・ダール執行副社長は言う。

環境負荷の小さい燃料として液化天然ガス(LNG)利用への関心が高まってはいるものの、採用ペースは遅い。複数の専門家・海運関係者は、水素やアンモニアなど他の選択肢についても普及には時間がかかるし、コストも高いと話している。

ノルウェーの海運会社トルバルド・クラブネスのラッセ・クリストファーセン社長兼CEOは、先月開催された海運関係のカンファレンスで、「状況はますます厳しく、残された時間は少なくなっている。今後10年間でゼロ・エミッション船舶を建造する必要がある。LNGに関わって時間を浪費する必要はない」と述べた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ノルウェーSWF、ガザ関連でさらに6社投資除外

ワールド

ゼレンスキー氏、ロシアの「冷酷な」攻撃非難 「訪米

ワールド

イラン、協力停止後もIAEAと協議継続 「数日中に

ワールド

米特使、イスラエルはレバノン和平計画に従うべき
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
2025年8月12日/2025年8月19日号(8/ 5発売)

現代日本に息づく戦争と復興と繁栄の時代を、ニューズウィークはこう伝えた

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コロラド州で報告相次ぐ...衝撃的な写真の正体
  • 2
    【クイズ】次のうち、「海軍の規模」で世界トップ5に入る国はどこ?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    AIはもう「限界」なのか?――巨額投資の8割が失敗する…
  • 5
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 6
    恐怖体験...飛行機内で隣の客から「ハラスメント」を…
  • 7
    「イラつく」「飛び降りたくなる」遅延する飛行機、…
  • 8
    40代は資格より自分のスキルを「リストラ」せよ――年…
  • 9
    「パイロットとCAが...」暴露動画が示した「機内での…
  • 10
    「長女の苦しみ」は大人になってからも...心理学者が…
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...「就学前後」に気を付けるべきポイント
  • 3
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コロラド州で報告相次ぐ...衝撃的な写真の正体
  • 4
    「笑い声が止まらん...」証明写真でエイリアン化して…
  • 5
    「長女の苦しみ」は大人になってからも...心理学者が…
  • 6
    【クイズ】次のうち、「海軍の規模」で世界トップ5に…
  • 7
    「何これ...」歯医者のX線写真で「鼻」に写り込んだ…
  • 8
    債務者救済かモラルハザードか 韓国50兆ウォン債務…
  • 9
    「触ったらどうなるか...」列車をストップさせ、乗客…
  • 10
    産油国イラクで、農家が太陽光発電パネルを続々導入…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 7
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 8
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 9
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
  • 10
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中