最新記事

テクノロジー

さようならブロックチェーンの夢 金融界、規制強化で実を結ばず

2019年7月18日(木)16時41分

米取引所ナスダックと米金融大手シティグループは2年前、ブロックチェーン技術によって私募証券取引の決済を効率化する新システムをお披露目し、「世界の金融セクターにおける一里塚だ」(ナスダックのアデナ・フリードマン最高経営責任者=CEO)とぶち上げた。写真は3月7日撮影(2019年 ロイター/Brendan McDermid)

米取引所ナスダックと米金融大手シティグループは2年前、ブロックチェーン技術によって私募証券取引の決済を効率化する新システムをお披露目し、「世界の金融セクターにおける一里塚だ」(ナスダックのアデナ・フリードマン最高経営責任者=CEO)とぶち上げた。

しかし事情に詳しい人物によると、このプロジェクトはその後進展していない。試験段階ではうまくいったが、全面的な採用となると費用が便益を上回ったからだ。

ブロックチェーンは「キラキラした幻想」であり、大規模な採用にはなお「時間を要する」とこの人物は言う。

銀行から大手小売企業、IT企業に至るまで、企業はブロックチェーン技術の採用に数十億ドルを投じてきた。しかし過去4年間に発表された大企業絡みのプロジェクト33件を検証し、プロジェクトに携わった10人以上の企業幹部に取材したところ、この技術はまだ成果を発揮していない。

うち少なくとも10件は試験段階で止まっている。その先に進んだプロジェクトも、まだ幅広い利用に至っていない。

一部の企業幹部によると、規制の壁がプロジェクトの実行を遅らせる例が多い。最近ではフェイスブックの暗号資産(仮想通貨)「リブラ」導入計画が世界中の規制当局から反発を買ったため、当局の監視は今後も厳しくなる一方だろう。

当初ウォール街を包んだ楽観論は消え、企業は今、本格的なプロジェクト稼動にはなお何年も要するという現実に目覚めている。

UBSの投資銀行部門で戦略的投資を統括するハイダー・ジャフリー氏は、プロジェクトが大きな影響力を持つに至るまでには3─7年かかるとの見通しを示した。

調査・コンサルタント会社グリニッチ・アソシエーツの推計では、資本市場と銀行セクターは昨年、ブロックチェーン計画に17億ドルを投資した。2016年から70%増加している。

調査会社IDCによると、22年までにはブロックチェーン投資が全産業で124億ドルに達する見通しだ。

一部の大手企業も参入を急いでいる。IBMはブロックチェーン技術を複数の異なる分野で活用するため、約1500人の従業員を計画に従事させている。

IBMとロンドン証券取引所によると、同技術を用いた両社の私募株発行システム開発計画は試験段階で止まっている。しかしIBMが多くの銀行と開発した貿易金融プラットフォームは商業化された。

IBMを含め、業界幹部らはブロックチェーン技術の将来性については引き続き強気で、投資も継続している。

スペインの銀行大手サンタンデールのデジタル投資銀行責任者、ジョン・フェラン氏は、ブロックチェーン計画は技術、需要、法令順守の3つに同時に取り組む必要があると指摘。「初期段階にブロックチェーンに関わったわれわれのような者は、3つの分野に同時に取り組むことの重要性を十分理解していなかったのかもしれない」と語った。

(Anna Irrera記者 John McCrank記者)

[ニューヨーク ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2019トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます



20190723issue_cover-200.jpg
※7月23日号(7月17日発売)は、「日本人が知るべきMMT」特集。世界が熱狂し、日本をモデルとする現代貨幣理論(MMT)。景気刺激のためどれだけ借金しても「通貨を発行できる国家は破綻しない」は本当か。世界経済の先行きが不安視されるなかで、景気を冷やしかねない消費増税を10月に控えた日本で今、注目の高まるMMTを徹底解説します。

20241029issue_cover150.png
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2024年10月29日号(10月22日発売)は「米大統領選 イスラエルリスク」特集。カマラ・ハリスが失う「イスラム教徒票」が勝負を分ける

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ドイツ銀、第3四半期は黒字回復 訴訟引当金戻し入れ

ビジネス

JDI、中国安徽省の工場立ち上げで最終契約に至らず

ビジネス

ボルボ・カーズの第3四半期、利益予想上回る 通年見

ビジネス

午後3時のドルは152円前半、「トランプトレード」
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:米大統領選 イスラエルリスク
特集:米大統領選 イスラエルリスク
2024年10月29日号(10/22発売)

イスラエル支持でカマラ・ハリスが失う「イスラム教徒票」が大統領選の勝負を分ける

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    秋の夜長に...「紫金山・アトラス彗星」が8万年ぶりに大接近、肉眼でも観測可能
  • 2
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」ものはどれ?
  • 3
    リアリストが日本被団協のノーベル平和賞受賞に思うこと
  • 4
    逃げ場はゼロ...ロシア軍の演習場を襲うウクライナ「…
  • 5
    トルコの古代遺跡に「ペルセウス座流星群」が降り注ぐ
  • 6
    大破した車の写真も...FPVドローンから逃げるロシア…
  • 7
    死亡リスクはロシア民族兵の4倍...ロシア軍に参加の…
  • 8
    中国経済が失速しても世界経済の底は抜けない
  • 9
    ウクライナ兵捕虜を処刑し始めたロシア軍。怖がらせ…
  • 10
    「ハリスがバイデンにクーデター」「ライオンのトレ…
  • 1
    秋の夜長に...「紫金山・アトラス彗星」が8万年ぶりに大接近、肉眼でも観測可能
  • 2
    死亡リスクはロシア民族兵の4倍...ロシア軍に参加の北朝鮮兵による「ブリヤート特別大隊」を待つ激戦地
  • 3
    大破した車の写真も...FPVドローンから逃げるロシア兵の正面に「竜の歯」 夜間に何者かが設置か(クルスク州)
  • 4
    韓国著作権団体、ノーベル賞受賞の韓江に教科書掲載料…
  • 5
    目撃された真っ白な「謎のキツネ」? 専門家も驚くそ…
  • 6
    ウクライナ兵捕虜を処刑し始めたロシア軍。怖がらせ…
  • 7
    逃げ場はゼロ...ロシア軍の演習場を襲うウクライナ「…
  • 8
    ロシア西部「弾薬庫」への攻撃で起きたのは、戦争が…
  • 9
    裁判沙汰になった300年前の沈没船、残骸発見→最新調…
  • 10
    北朝鮮を訪問したプーチン、金正恩の隣で「ものすご…
  • 1
    ベッツが語る大谷翔平の素顔「ショウは普通の男」「自由がないのは気の毒」「野球は超人的」
  • 2
    「地球が作り得る最大のハリケーン」が間もなくフロリダ上陸、「避難しなければ死ぬ」レベル
  • 3
    秋の夜長に...「紫金山・アトラス彗星」が8万年ぶりに大接近、肉眼でも観測可能
  • 4
    死亡リスクはロシア民族兵の4倍...ロシア軍に参加の…
  • 5
    大破した車の写真も...FPVドローンから逃げるロシア…
  • 6
    ウクライナに供与したF16がまた墜落?活躍する姿はど…
  • 7
    漫画、アニメの「次」のコンテンツは中国もうらやむ…
  • 8
    エジプト「叫ぶ女性ミイラ」の謎解明...最新技術が明…
  • 9
    ウクライナ軍、ドローンに続く「新兵器」と期待する…
  • 10
    韓国著作権団体、ノーベル賞受賞の韓江に教科書掲載料…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中