最新記事

日本人が知るべきMMT

【解説】日本に消費増税は不要? ケルトンが提唱するMMTは1936年にさかのぼる

2019年7月17日(水)17時10分
ニューズウィーク日本版編集部

Illustration by COOPERR007-ISTOCK PHOTOS

<米民主党の政治家を中心に盛り上がりを見せ、消費増税を控えた日本でも注目が高まる現代貨幣理論(MMT)――。「どれだけ借金しても国家は破綻しない」は本当か>

参院選真っ只中の日本では、憲法改正や外交政策などに加え、経済政策が大きな争点となっている。特に10月に控えている消費増税、そして選挙直前に金融庁審議会の報告書で浮上した年金不安の問題が大きな注目を集めている。

いずれも日本にとっての「永遠のテーマ」とも言える財政健全化に関連する問題だ。日本は20年ほど前から巨額の財政赤字を出し、政府債務残高の対GDP比は約240%に達している。だが、財政健全化は2007年にアメリカで始まった金融危機以降、世界に共通する課題にもなっている。

危機後、世界各国では経済の回復のため積極的な金融政策と財政政策がとられてきた。中央銀行は金利を大幅に引き下げ、さらには大規模な量的緩和策やリスク資産の購入など「非伝統的」な金融政策を実施。政府は政府債務の拡大と引き換えに、巨額の公的資金を投じて景気刺激を行った。

おかげで世界経済は回復したとされる。多くの国で株価は高騰し、失業率は歴史的水準にまで低下した。一方、こうした政策によって拡大した中央銀行のバランスシートや政府債務を「正常化」させることの必要性が、「危機克服」後の新たなテーマとして浮上している。

だが今、アメリカを中心に財政健全化とは真逆を行く主張が、大きな議論の的となっている。「政府はもっと財政を拡大しろ」「そのために必要ならどんどん借金しろ」「どれだけ借金しても国家は破綻しない」と主張する現代貨幣理論(MMT)だ。
20190723issue_cover-200.jpg
7月16日、MMT推進派の中心的存在、経済学者のステファニー・ケルトンが来日し、都内で講演を行った。日本でも俄然注目が高まるMMTだが、本誌では本日発売の7月23日号で「日本人が知るべきMMT」特集を組み、果たしてこの理論が正しいのか、推進派・批判派双方の主張を読み解きながら、徹底解説を試みた。

特集では元本誌オピニオンエディターで、著書に『ケインズかハイエクか――資本主義を動かした世紀の対決』(新潮社)があるニコラス・ワプショットが、この理論の中核にはケインズ理論があると解説。イギリスの経済学者ジョン・メイナード・ケインズは1936年の『雇用・利子および貨幣の一般理論』で、不況の際に政府が公共投資を行って雇用を守ることの重要性を唱えた。

さらにワプショットは、ケインズの経済学がいかにMMTに発展したかについて、次のように書いている。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

台湾総統、強権的な指導者崇拝を批判 中国軍事パレー

ワールド

セルビアはロシアとの協力関係の改善望む=ブチッチ大

ワールド

EU気候変動目標の交渉、フランスが首脳レベルへの引

ワールド

米高裁も不法移民送還に違法判断、政権の「敵性外国人
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:豪ワーホリ残酷物語
特集:豪ワーホリ残酷物語
2025年9月 9日号(9/ 2発売)

円安の日本から「出稼ぎ」に行く時代──オーストラリアで搾取される若者たちの実態は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニングをする女性、異変を感じ、背後に「見えたモノ」にSNS震撼
  • 2
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体」をつくる4つの食事ポイント
  • 3
    「見せびらかし...」ベッカム長男夫妻、家族とのヨットバカンスに不参加も「価格5倍」の豪華ヨットで2日後同じ寄港地に
  • 4
    上から下まで何も隠さず、全身「横から丸見え」...シ…
  • 5
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が…
  • 6
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動…
  • 7
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 8
    Z世代の幸福度は、実はとても低い...国際研究が彼ら…
  • 9
    トレーニング継続率は7倍に...運動を「サボりたい」…
  • 10
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 1
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が下がった「意外な理由」
  • 2
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動ける体」をつくる、エキセントリック運動【note限定公開記事】
  • 3
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ女性が目にした光景が「酷すぎる」とSNS震撼、大論争に
  • 4
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体…
  • 5
    25年以内に「がん」を上回る死因に...「スーパーバグ…
  • 6
    豊かさに溺れ、非生産的で野心のない国へ...「世界が…
  • 7
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 8
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 9
    首を制する者が、筋トレを制す...見た目もパフォーマ…
  • 10
    上から下まで何も隠さず、全身「横から丸見え」...シ…
  • 1
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 2
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 3
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大ベビー」の姿にSNS震撼「ほぼ幼児では?」
  • 4
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 5
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 6
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 7
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 8
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 9
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 10
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中