最新記事

不動産

インドから上陸した「不動産業界のアマゾン」 敷金礼金ゼロ「スマホで完結」のカラクリとは

2019年3月18日(月)12時30分
一井 純(東洋経済記者) *東洋経済オンラインからの転載

OYO LIFEの特徴は、物件の貸し主と借り主とをつなぐ「仲介」ではなく、自ら物件を借り、それを転貸する「サブリース」を採っている点だ。実は、これが契約の電子化を達成するためのカギとなる。

これまで電子化が進まなかった理由は、不動産業界がITに及び腰というよりも、むしろ賃貸借契約が法律でがんじがらめに規制されているためだった。宅地建物取引業法(宅建業法)は物件概要や契約条件などが記載されている「重要事項説明書(重説)」について、専門の資格を有した宅地建物取引士が対面で説明しなければならないと規定しており、これが電子化を阻む要因となっていた。

2017年10月よりテレビ電話などを介した「IT重説」が解禁され、説明を聞くためだけに来店する必要はなくなった。それでも契約成立時には書面を交付しなければならず、手続きの完全なペーパーレスには障壁が残っていた。

だが、これはあくまで「仲介」の場合だ。物件の貸し主が直接借り主とやりとりする場合には、宅建業法の射程外となり重説の必要はない。自ら貸し主となるサブリースはこれに当たる。すでにアパートのサブリースを展開するレオパレス21が「貸し主」としての立場を生かして、2015年11月より直営店で契約の電子化を進めているが、OYO LIFEもこの空隙を突いた。

賃貸はあくまで入口にすぎない?

newsweek_20190318_123617.jpg

OYO LIFEの勝瀬博則CEOは「ホテルのように賃貸住宅の手続きを簡便にしたい」と語る(撮影:今井康一)

OYO LIFEにとってもう一つの売りである「敷金・礼金・仲介手数料無料」は、収益源を契約後に求めることで実現した。家具家電が設置済みでWi-Fiも完備とはいえ、OYO LIFEが展開する物件の家賃水準は周辺相場よりもやや強気だ。品川区内のあるマンションでは、およそ10万円弱で賃貸に出されている物件を、12万円強で貸している。

「(敷金・礼金・仲介手数料・引っ越し代金などがある場合と比べて)18ヵ月まではOYO LIFEで住んだ方が安くなる水準」(勝瀬CEO)が家賃設定の目安だといい、イニシャルコストをなくした分、ランニングコストで回収する設計となっている。

とはいえ、単なる賃貸住宅のサブリースにとどまれば、既存の業者との競争に巻きこまれてしまう。今後のビジネス展開についてはOYO LIFE、そして出資者であるヤフーもともに「検討中」とするものの、賃貸事業はあくまで入口にすぎないと推測される。そして、仲介でなく「貸し主」としての立場は、賃貸事業を超えたポテンシャルを秘めている。

なぜなら、入居者の属性に関するデータを保有することで、それに基づいたさまざまなサービス提供が可能になるためだ。企業とタイアップをして、年代や趣向、生活スタイルに当てはまる入居者へのアンケートや製品サンプル、また家具家電のモニター利用といったサービスが挙げられる。ファミリーや高齢者といった、一定の属性の入居者が集まれば、子育てや高齢者介護などのサービスを付加価値として提供する余地も生まれる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

豪シドニーのロシア領事館に車が突入、39歳男を逮捕

ビジネス

26年度の一般会計予算要求、過去最大122.4兆円

ワールド

ブラジル大統領、トランプ関税への報復措置「急ぐ必要

ワールド

北朝鮮の金総書記、新たなミサイル生産ライン視察=K
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:健康長寿の筋トレ入門
特集:健康長寿の筋トレ入門
2025年9月 2日号(8/26発売)

「何歳から始めても遅すぎることはない」――長寿時代の今こそ筋力の大切さを見直す時

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    首を制する者が、筋トレを制す...見た目もパフォーマンスも変える「頸部トレーニング」の真実とは?
  • 2
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体」をつくる4つの食事ポイント
  • 3
    上から下まで何も隠さず、全身「横から丸見え」...シャロン・ストーンの過激衣装にネット衝撃
  • 4
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動…
  • 5
    「体を動かすと頭が冴える」は気のせいじゃなかった⋯…
  • 6
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 7
    映画『K-POPガールズ! デーモン・ハンターズ』が世…
  • 8
    就寝中に体の上を這い回る「危険生物」に気付いた女…
  • 9
    シャーロット王女とルイ王子の「きょうだい愛」の瞬…
  • 10
    世界でも珍しい「日本の水泳授業」、消滅の危機にあ…
  • 1
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ女性が目にした光景が「酷すぎる」とSNS震撼、大論争に
  • 2
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット民が「塩素かぶれ」じゃないと見抜いたワケ
  • 3
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が下がった「意外な理由」
  • 4
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動…
  • 5
    皮膚の内側に虫がいるの? 投稿された「奇妙な斑点」…
  • 6
    飛行機内で隣の客が「最悪」のマナー違反、「体を密…
  • 7
    25年以内に「がん」を上回る死因に...「スーパーバグ…
  • 8
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体…
  • 9
    豊かさに溺れ、非生産的で野心のない国へ...「世界が…
  • 10
    脳をハイジャックする「10の超加工食品」とは?...罪…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 7
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 8
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 9
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 10
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中