最新記事

不動産

インドから上陸した「不動産業界のアマゾン」 敷金礼金ゼロ「スマホで完結」のカラクリとは

2019年3月18日(月)12時30分
一井 純(東洋経済記者) *東洋経済オンラインからの転載

newsweek_20190318123935.jpg

OYO LIFEのロゴ。将来的に提携する仲介業者の店頭にもロゴのシールを貼る予定だという(記者撮影)

家電やWi-Fi、電力など備え付けのサービスを、ヤフーやその親会社であるソフトバンクが一括して提供することも考え得る。これらのアイデアについて勝瀬CEOは「顧客満足の最大化が一番。必要とあらばその都度検討したい」と、今後の展開に含みを持たせた。

「住み替え」文化の定着がカギ

画期的に見える事業だが、成否がわかるのはこれからだ。入居者に対するサービス提供は規模の経済が働き、人数が多ければ多いほどコストは減り、利便性は増える。他方で、物件を大量に抱えることは「在庫リスク」にもさらされることになる。物件所有者には賃料保証を行っており、空室が続いても家賃は毎月納める必要があるからだ。

OYO LIFEが主要な利用形態と位置づけるのは、30日から90日までの利用。短期間での住み替えを促すOYO LIFEにとって、入退去に伴う空室は通常の賃貸住宅よりも頻繁に発生する。勝瀬CEOは「OYO LIFEには客付けの力があり、(空室による機会損失は)十分に賄える」と自信を見せる。

カギは短期間での住み替えを文化として根付かせられるかだろう。都心で月10万円以上の家賃を払いつつ、住居を転々とすることを望む層は多くはない。今後はマンションを1棟丸ごと借り上げる予定だというが、ヤフーが抱える膨大な会員に訴求したり、法人利用を獲得したりするなどさまざまなチャネルで物件を提供していくことが欠かせない。

利用日数を原則30~90日としたのには理由がある。まず最低利用日数の30日は、1カ月未満の利用が旅館業法に抵触しかねないため。「民泊に進出する気はない。賃貸と一緒に展開することにはリスクがある」(勝瀬CEO)。さらに90日を超えると、法律上「一時使用目的の建物賃貸借」と認定されないリスクがある。そのためOYO LIFEでは、90日を超えて住む場合、改めて書面で定期借家契約を結ぶようにした。この点で、自慢の「契約電子化」が完全に実現したわけではない。

それでも、サービス開始前から数百部屋を借り上げるなど、拡大を続けるOYO LIFEのインパクトは計り知れない。インドのOYO本体はソフトバンク・ビジョン・ファンドなどから10億ドルを調達しており、物件取得費やある程度の空室は初期投資として割り切る体力を備えている。勢いが急に衰えることはなさそうだ。

「われわれは(出店者を集めるECモールではなく)アマゾンのように自ら仕入れを行う。リスクはあるが、価格やサービス内容を自由にコントロールできるため、顧客に大きなベネフィットを提供できる」(勝瀬CEO)。「不動産業界のアマゾン」は、これまでにない発想で賃貸事業に照準を定めている。

ニューズウィーク日本版 世界も「老害」戦争
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年11月25日号(11月18日発売)は「世界も『老害』戦争」特集。アメリカやヨーロッパでも若者が高齢者の「犠牲」に

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

オランダ政府、ネクスペリア管理措置を停止 中国「正

ビジネス

日経平均は反発で寄り付く、米エヌビディア決算を好感

ワールド

米大統領、サウジ要請でスーダン内戦終結へ取り組むと

ワールド

サマーズ氏、オープンAI取締役辞任 エプスタイン元
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 2
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 3
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、完成した「信じられない」大失敗ヘアにSNS爆笑
  • 4
    ロシアはすでに戦争準備段階――ポーランド軍トップが…
  • 5
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 6
    「これは侮辱だ」ディズニー、生成AI使用の「衝撃宣…
  • 7
    アメリカの雇用低迷と景気の関係が変化した可能性
  • 8
    衛星画像が捉えた中国の「侵攻部隊」
  • 9
    ホワイトカラー志望への偏りが人手不足をより深刻化…
  • 10
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 5
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 6
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 7
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 8
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 9
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 10
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中