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インドと日本の「非欧米型」イノベーションから学べること

2017年8月8日(火)19時17分
ニヒル・ラバル(デューク・コーポレート・エデュケーション・インド経営幹部) ※編集・企画:情報工場

「ジュガード」という日常的に使われるヒンディー語がある。同じ意味の英語が存在しないのだが、おそらく「リソースが限られる中で効果的な応急の解決策を見出すことで困難に立ち向かう」といった意味になるのだろう。ジュガードの精神がインド中に広まっていることは「荷車にディーゼルエンジンを応急的にくっつけてトラック代わりにする」といった創意工夫が日常的に行われていた事実からもよくわかる。

ジュガードの精神には「逆境の中でチャンスを見出す」「最小で最大の効果を上げる」という2つの要素があるのだが、これらはいずれも倹約イノベーションにも当てはまる。

宇宙開発から、冷蔵庫、腕時計、眼科手術まで

インドでは、取得特許数のような古典的なイノベーションの指標では低い水準にあっても、実際には多くの私企業がサービスやプロセス、ビジネスモデルのイノベーションを起こしている。これまでの標準的なイノベーションの基準だけを見ていては、それらを見逃してしまうだろう。それゆえ、倹約イノベーションは「東洋の隠された宝石」なのだ。

以下、倹約イノベーションの具体例をいくつか紹介しよう。

●先進的な宇宙開発

インドが参戦する以前には、火星を周回する人工衛星の打ち上げに成功したのは3例だけだった。米国とロシア、そして欧州宇宙機関(ESA)だ。しかし、インド宇宙開発研究所(ISRO)によるマンガルヤーン(「火星の乗り物」を意味する)人工衛星プロジェクトは、その列に加わっただけでなく、これまでで最低コストの恒星間ミッションとなった。7400万ドルしかかかっていないのだ。NASAの火星探査計画MAVENには、その10倍のコストが費やされている。

マンガルヤーン・プロジェクトは、インドが「低コスト」の国ではなく、「卓越した能力」の国であることを証明した。欧米発の多国籍企業は、インドを安い労働力の供給元としか見ていないことがほとんどだ。それは重大な誤りだ。インドの科学者やエンジニアは世界レベルにある。そして彼らの才能は、現状、低コストで手に入れられるのだ。

●クールなアイデア

小型冷蔵庫の「チョトゥクール」は、インドの食料貯蔵にまつわる課題に取り組んだイノベーションだ。この国の約8割の家庭は冷蔵庫を持っていないばかりか、借りて使うこともできないでいる。それもあり、国全体でおよそ3分の1の食料が廃棄されているのが現状だ。

チョトゥクールは12ボルトのバッテリーで、摂氏8度から10度の温度で食料を冷やせるプラスチック製の入れ物だ。国内で流通している一般的な冷蔵庫のコンプレッサー技術を使わずに、独自の熱電方式、あるいはソリッドステート方式の冷却システムを採用している。また、扉は手前ではなく上部に付いている。内部に最大限冷気を閉じ込めておくための工夫だ。

【参考記事】重さ64グラム!世界最小かつ最軽量の人工衛星をインドの青年が開発

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