最新記事

提言

世界経済は「救命ボートもなく氷山に突き進む外洋客船」

世界経済を漂流させる低成長と戦うためには法人減税などの成長促進策が必要だ

2015年6月8日(月)11時35分
アフシン・モラビ(本誌コラムニスト)

経済版タイタニック 世界経済という船を待つ運命は? TBD / GETTY IMAGES

 有力なエコノミストがタイタニック号の比喩を持ち出したときは、経済の先行きを心配したほうがいい。英金融大手HSBCのチーフ・グローバルエコノミストであるスティーブン・キングは先頃発表した報告書で、まさにその不吉な予言を行った。

 キングに言わせれば、今の世界経済は、「救命ボートのない外洋客船」が巨大な氷山に向けて突き進んでいるようなものだという。政府債務が膨れ上がり、経済成長は減速し、超低金利状態で金融政策の「弾」も尽き始めている、というわけだ。

 キングが警告を発するのも無理はない。金融危機前に比べて金融機関の財務はだいぶ健全化されているが、最近は政府と家計の債務が積み上がっている。

 マッキンゼー・グローバル研究所によれば、世界全体の債務の総額は07〜14年で57兆ドル増えて、200兆ドルに近づいている。この増加分のうち、25兆ドルが政府債務だ。特に問題なのは、世界の大半の国で政府債務の対GDP比が08〜09年より上昇していることだと、同研究所は指摘する。

世界の中央銀行が量的緩和を縮小し始めたらどうなるのか

 それだけではない。世界の国々の中央銀行が足並みをそろえて量的緩和を実施した結果、グローバルな金融システムに約12兆ドルの流動性が注入された。この措置は、資産インフレと株価の上昇をもたらしている。

 問題は、中央銀行が量的緩和政策の縮小を始めたとき、どうなるかだ(いずれは、必ずそういう時期が来る)。株価と住宅価格が暴落し、それが成長の足を引っ張り、さらにそれが株価と住宅価格の下落を招く......という負の連鎖に陥り、経済がパニック状態になりはしないか。

 しかし、金融危機の再来になることは考えにくい。金融機関に対する厳しい規制が導入された結果、世界の巨大金融機関は昔に比べてリスクを避けるようになっているからだ。

 むしろ、世界経済に差し迫っている問題は低成長危機だ。それなりの経済成長率が実現しなければ――IMF予測の3・5%では足りない――世界経済という船は、母港を持たず、舵が故障したまま、海図のない海を漂流することになる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

アングル:値上げ続きの高級ブランド、トランプ関税で

ワールド

訂正:トランプ氏、「適切な海域」に原潜2隻配備を命

ビジネス

トランプ氏、雇用統計「不正操作」と主張 労働省統計

ビジネス

労働市場巡る懸念が利下げ支持の理由、FRB高官2人
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ関税15%の衝撃
特集:トランプ関税15%の衝撃
2025年8月 5日号(7/29発売)

例外的に低い日本への税率は同盟国への配慮か、ディールの罠か

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    日本人の児童買春ツアーに外務省が異例の警告
  • 3
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿がSNSで話題に、母親は嫌がる娘を「無視」して強行
  • 4
    カムチャツカも東日本もスマトラ島沖も──史上最大級…
  • 5
    【クイズ】2010~20年にかけて、キリスト教徒が「多…
  • 6
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 7
    これはセクハラか、メンタルヘルス問題か?...米ヒー…
  • 8
    オーランド・ブルームの「血液浄化」報告が物議...マ…
  • 9
    枕元に響く「不気味な咀嚼音...」飛び起きた女性が目…
  • 10
    一帯に轟く爆発音...空を横切り、ロシア重要施設に突…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 3
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜つくられる
  • 4
    いきなり目の前にヒグマが現れたら、何をすべき? 経…
  • 5
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 6
    日本人の児童買春ツアーに外務省が異例の警告
  • 7
    いま玄関に「最悪の来訪者」が...ドアベルカメラから…
  • 8
    中国が強行する「人類史上最大」ダム建設...生態系や…
  • 9
    枕元に響く「不気味な咀嚼音...」飛び起きた女性が目…
  • 10
    【クイズ】1位は韓国...世界で2番目に「出生率が低い…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 3
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 4
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が…
  • 5
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの…
  • 6
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜…
  • 7
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは…
  • 8
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 9
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップ…
  • 10
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中