最新記事

ファストフード

不景気をぶっ飛ばす新発想タコス

売上高でKFCもマクドナルドも抜いたタコベルが示す雇用創出への処方箋

2013年4月9日(火)15時06分
ダニエル・グロス(ビジネス担当)

若者に人気 スナック菓子のドリトスを皮に使ったタコスは1日に100万個も売れた Fred Prouser-Reuters

 ここ1年ほどアナリストは、米雇用が伸び悩む元凶として、財政の崖や歳出の強制削減といった政治的要因を挙げてきた。だが雇用市場を活性化させたのは別の要因──より強力で、よりうまみのある要因が働いたようだ。
 
 それはドリトス・ロコス・タコス。スナック菓子の定番「ドリトス」のナチョチーズ味で作ったパリパリの皮にミンチ肉と野菜を詰めた新発想のタコスだ。米ファストフードチェーン、タコベルが昨年発売したヒット商品で年間3億7500万個、1日にざっと100万個が売れた。

 おかげでタコベルは売り上げを驚異的に伸ばし、伸び率ではケンタッキー・フライドチキン(KFC)とピザハットばかりか、マクドナルドまで上回った。「タコベル創業以来、最も当たった新製品だ」と、グレッグ・クリードCEOは言う。昨年の既存店の売上高は8%増え、人員も1万5000人増強した。

 小さなタコスが雇用創出に大きく貢献したわけだ。気をよくしたタコベルは先月、第2弾としてドリトスの別フレーバーを使ったクールランチ・ドリトス・ロコス・タコスを発売した。

 タコベルの成功が物語るのは、慢性的な金欠病にあえぐアメリカ人消費者も革新的な新製品には飛び付くという事実だ。それにしても、ヘルシーなグルメ料理が求められる時代に、タコベルはなぜ成功したのだろう。

 クリードによると、中心的な客層である若者、それも主に男性に的を絞った戦略が奏功した。彼らは手っ取り早いエネルギー源として安いファストフードをぱくつく。

 スナック菓子メーカーのフリトレー社との提携も成長を支えている。フリトレーの人気商品ドリトスを使ったタコスは「わが社の専売特許だ」と、クリードは胸を張る。「おかげで今後10年間に、国内だけで2000店舗増やせる見込みだ」

「人に優しい企業」が売り

 アメリカ国内での拡大にこだわるのも、タコベル独自の戦略だ。マクドナルドは売り上げの約3分の2を国外で稼いでいる。KFCとピザハットのチェーン店も国外が大半で、中国だけで何千店舗も展開している。

 それに比べてタコベルの国外店舗は約280しかなく、それもカナダが大半だ。タコスの本場メキシコには1店舗もなく、インドでもわずか3店舗。もともとKFCやピザハットに比べ小規模資本であることと、タコスは外国の消費者にあまりなじみがないことが国内志向の背景にある。

 加えて、短期間に国外進出を進めると、食材の品質などで問題が起きかねない。KFCは中国産鶏肉の安全性問題で打撃を受けた。ヨーロッパで牛肉として売られていた食肉に馬肉が混入していた問題では、タコベルもイギリスで販売した一部商品への混入を認め、謝罪した。

 問題はそれだけではない。ファストフードチェーンは労働集約型の産業だ。オバマ政権は医療保険制度を改革し、最低賃金の引き上げも目指している。人件費の膨張が経営を圧迫する心配はないのか。「新医療保険制度の導入は14年だ。既に系列店スタッフの保険加入コストはほぼ把握できている」と、クリードは言う。

 福利厚生の充実はブランドイメージの向上にもつながると、クリードは考えている。「顧客は商品の品質だけではなく、人に優しい会社かどうかで企業を評価する」

 グルメ志向が高まるなか、商品の味以上に従業員の待遇をアピールするタコベル。長期的に見れば、B級グルメチェーンの成功にはそんな戦略も効果的かもしれない。

[2013年4月 9日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

第一生命HD、30年度利益目標引き上げ 7000億

ビジネス

JPモルガン、FRB利下げ予想12月に前倒し

ワールド

ニュージーランド、中銀の新会長にフィンレイ副会長を

ビジネス

中国の安踏体育、プーマ買収検討 アシックスなども関
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 3
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 4
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 5
    7歳の娘の「スマホの検索履歴」で見つかった「衝撃の…
  • 6
    がん患者の歯のX線画像に映った「真っ黒な空洞」...…
  • 7
    ミッキーマウスの著作権は切れている...それでも企業…
  • 8
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    ウクライナ降伏にも等しい「28項目の和平案」の裏に…
  • 1
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 2
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 5
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 6
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 7
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 8
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 9
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ…
  • 10
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中