最新記事

欧州債務危機

キプロス危機、陰の主役はロシア

EUがキプロスの救済条件として劇薬の預金課税にこだわった理由

2013年4月3日(水)13時37分
スティーブ・ハンキー(ジョンズ・ホプキンズ大学応用経済学教授)

パニック キプロス銀行のATMに列を作る市民 Yorgos Karahalis-Reuters

 地中海の小さな島国キプロスを救えるのはEUか、はたまたロシアか。

 去る3月16日、EUとIMF(国際通貨基金)は総額約205億ドルの救済策を決めた。ただし驚愕の条件付きだ。キプロス政府は銀行預金に対する1回限りの課税で75億ドルを自力調達せよ、そうすれば残りの130億ドルを提供するというのだ。

 当然、キプロス国民は猛反発。議会も即座に預金課税法案を否決した。困ったキプロス政府は、営業停止中の国内銀行が再び店を開ける3月26日までに代替案をまとめようと奔走中だ。

 人口90万にも満たない小国の危機など、別に騒ぐほどの話ではない、EUの屋台骨が揺らぐはずもないと思われるかもしれない。しかしそれは違う。第1に、キプロスの銀行資産は意外に大きく、同国のGDPの6倍以上もある。

 それに、もしもキプロス政府が銀行預金への臨時課税を実施すれば悪しき前例となり、今でさえ脆弱なヨーロッパの銀行システムへの信頼はいっそう傷つく。一方、救済失敗で銀行が次々と倒れれば、その余波は確実に海を越えて広がる。

 なぜ、このタイミングで危機が深刻化したのか。なぜEUは、キプロスの預金者にこれほどの犠牲を強いるのか。

預金の多くはロシアから

 預金者が誰かを知れば、その謎は解ける。かつてキプロスの銀行には欧州の法人や個人の口座が数多くあったが、10年頃から預金の引き揚げが始まり、現在はほとんど残っていない。

 だからEUはキプロスの銀行預金に対する課税を持ち出した。今なら、課税してもEU域内の企業や個人はほとんど損失を被らないからだ。

 問題はロシアだ。マネーロンダリング(資金洗浄)への規制が緩いキプロスの銀行に、ロシアの資金が大量に流れ込んでいるのは周知の事実。ロシア人の預金額は10年の夏以降で2倍以上に増え、昨年末には300億ドルを超えた。

 しかもこれとは別に、キプロス人名義だが実質的にロシア人のものと考えられる預金が約300億ドルある。多くのロシア企業がタックス・ヘイブン(租税回避地)としてキプロスを利用しているからだ。合計約600億ドルのロシアマネーは、昨年12月段階でキプロスの銀行にあった預金残高の半分以上に当たる。

 台所の苦しいEUは誰かにキプロス救済資金の一部を負担させたいと考えており、それがロシアだったわけだ。

 だが実質的にロシア人を狙い撃ちする預金課税となれば、プーチン大統領が黙っていない。自国民の大切な預金が奪われる事態は許せないプーチンは、EU主導の救済策に猛反発している。となると、EUの代わりに気前よく救済資金を出すかもしれない。キプロス沖に眠る天然ガス資源の権益や地中海に面する軍港の使用権などと交換なら、決して高い買い物ではあるまい。

 いずれにせよ、銀行の営業が再開される3月26日までに結論が出なければ、取り付け騒ぎが起きる可能性がある。

[2013年4月 2日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米国やG7と連携、冷静・毅然に対応=中国輸出規制で

ビジネス

PEのクアンタム、ルクオイル海外資産に入札 シェブ

ビジネス

ユーロ圏消費者物価、12月2%に減速 ECB目標と

ワールド

ウクライナ高官、「国益守られる」と評価 有志国会合
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:AI兵士の新しい戦争
特集:AI兵士の新しい戦争
2026年1月13日号(1/ 6発売)

ヒューマノイド・ロボット「ファントムMK1」がアメリカの戦場と戦争をこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 3
    日本も他人事じゃない? デジタル先進国デンマークが「手紙配達」をやめた理由
  • 4
    「見ないで!」お風呂に閉じこもる姉妹...警告を無視…
  • 5
    トランプがベネズエラで大幅に書き換えた「モンロー…
  • 6
    「グリーンランドにはロシアと中国の船がうじゃうじ…
  • 7
    「悪夢だ...」バリ島のホテルのトイレで「まさかの事…
  • 8
    若者の17%が就職できない?...中国の最新統計が示し…
  • 9
    衛星画像で見る「消し炭」の軍事施設...ベネズエラで…
  • 10
    マドゥロ拘束作戦で暗躍した偵察機「RQ-170」...米空…
  • 1
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチン、その先は袋小路か
  • 2
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 3
    中国軍の挑発に口を閉ざす韓国軍の危うい実態 「沈黙」は抑止かそれとも無能?
  • 4
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 5
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 6
    眠る筋力を覚醒させる技術「ブレーシング」とは?...…
  • 7
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 8
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 9
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 10
    アメリカ、中国に台湾圧力停止を求める
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 6
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 7
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 8
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 9
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 10
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中