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スタバとNYの悲しい恋

あの至れり尽くせりのサービスはどこへ?スタバの「心変わり」に戸惑うニューヨーカーの嘆き

2012年9月11日(火)16時35分
ジョナサン・ニー(米コロンビア大学経営大学院特任教授)

昔は良かった 今はコーヒーのお代わりやラップトップの使用にも冷たい視線が Lily Bowers-Reuters

 えり好みが激しいニューヨーカーとスターバックスの情熱的な関係は、後者の派手な誘惑作戦で始まった。

 ニューヨーク初のスターバックスが、マンハッタン中心部に進出したのは94年。このビッグニュースにメディアは熱狂し、「ビッグアップルがビーンタウンへ」「コーヒー店がニューヨークをロースト(熱く)する」といった見出しが躍った。

 当時、世界最大のスターバックス店舗だったニューヨーク1号店は、同社のハワード・シュルツCEOが「入場制限をしなければならなかった」と喜びの悲鳴を上げるほどの大盛況に。しかしたった1軒では愛情表現が足りないことを、シュルツはちゃんと分かっていた。

 長く真剣な関係を続けたい気持ちの証しとして、スターバックスは4年後までにニューヨーク市内でさらに100店舗をオープンすると表明した。59カ国に約2万店を展開する今から思えば、大した数ではないかもしれないが、当時の出店数は世界で300店。スターバックスのニューヨークへの愛はどうみても本物だった。

 初出店から数年をかけて、スターバックスは筆者を含む懐疑派のニューヨーカーの心もつかんだ。都会生活のストレスを癒やすふかふかのソファ、この街では奇跡のように清潔で快適なトイレ、激安で提供するコーヒーのお代わり──そんな愛情いっぱいのプレゼントを山ほど用意して。

 おまけにスタッフは親切で知識豊富で忍耐強く、こちらの名前もコーヒーの好みも覚えてくれる。ほかのファストフード店ではあり得ないもてなしに、皮肉屋のニューヨークっ子も巨大グローバル企業に丸め込まれているという事実を忘れた。

もうパソコンも使えない

 筆者はずっとスターバックスに抵抗してきた。あの程度の量のコーヒーを「トールサイズ」と呼ぶのが許せないし、初めての著書を執筆するのによく使った地元のキューバ料理店を見捨てられなかったからだ。

 だが08年にスターバックスが無料WiFiサービスを始めた頃には、ラップトップ持参で近所のスターバックスへ通い、居心地のいいソファでくつろぐのが日常になった。このコーヒー店はニューヨーカー独特のニーズを理解し、本気で付き合っていこうとしている、そう思っていた。最近までは......。

 スターバックスとニューヨークは今や「倦怠期」に陥っている。時間とともに当初の情熱が冷めるのが恋愛の法則。わがままで気まぐれだからこそ、あれほど心をつかもうと躍起になったニューヨークの消費者に、スターバックスはいら立ちを感じ始めた。

 兆候はしばらく前からあった。ニューヨークのスターバックスから快適な椅子が消え、03年には1号店が閉店された。いくつかの店舗では、混雑時間帯にラップトップが使用しづらい雰囲気になり、パソコンを使わせないためにコンセントを塞いでしまう店舗も増えた。

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