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スタバとNYの悲しい恋

2012年9月11日(火)16時35分
ジョナサン・ニー(米コロンビア大学経営大学院特任教授)

 昨年11月にはニューヨーク・ポスト紙で、スターバックスが顧客のトイレ使用を禁止、と報じられた(これはマナーの悪さに憤る一部店舗の従業員が独断で行った措置で、すぐに撤回された)。記事の中で「スターバックスのニューヨーク事業計画関係者」は「公衆トイレ代わりに使われること」にうんざりしていると語っている。

 お代わりも、本当に店内で飲んだコーヒーのお代わりかを確認した後でなければできないことが多くなった。感じが良かったはずのスタッフに、最初のコーヒーを購入したのは1時間以内なのか、などと詰問されるケースも出てきている。なぜこんな関係になってしまったのか?

 次から次に新しい流行が誕生するニューヨークでは、消費者を常にちやほやしないと心をつかんでおけない。08年の金融危機で地元経済が打撃を受け、ニューヨーカーの自信が揺らいだ時期は特にそうだった。

 だが株価が10ドルを割っていた当時のスターバックスにしてみれば、そんな要求に応えるのは無理な話。しかも同社にとってニューヨークは今や、世界全体の店舗数のわずか1%を占める地域にすぎない。

こんな店とは別れよう

 こうした現状にはいい側面もある。スターバックスの独占状態が崩れ始めたのをチャンスと見て、ロサンゼルスが本拠の「コーヒービーン&ティーリーフ」やカナダの「ティムホートンズ」など、ほかの大手チェーンがニューヨーク出店に乗り出していることだ。

 さらに重要なことに、「カフェ・グランピー」といった地元生まれの小規模な優良チェーンが、かつてのスターバックスの牙城に食い込んできている。こうしたチェーンは、スターバックスよりニューヨーク的だ。

「破局」はいつだってつらいものだし、苦々しい気持ちを避けては通れない。それでもいつかは、関係を清算して良かったと思える日が必ずやって来る。

 先日、筆者の自宅の近所では、改修工事が済んだスターバックスが営業を再開した。改修前に窓辺に並んでいたスツールはもうない。スタッフによれば、お代わりの提供もやめたという。座る場所がないのに、店内でゆっくりコーヒーを飲むお客がいるとは考えられないからだ。

 ニューヨーク1号店ができた頃、メディアが言ったことは正しかった。確かにスターバックスはニューヨーカーを「ロースト」した。そう、「さんざんこけにする」という、もう1つの意味でだ。

© 2012, Slate

[2012年8月 8日号掲載]

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