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アップルの猛禽文化と競争原理主義

2012年8月2日(木)16時28分

高校生ががんの治療法を見つける風土

──会社が戦場。なぜそこまでできるのか。

 ちょっと出世すると収入が大幅に増える。ストック・オプション(自社株購入権)ももらって、アップルの株価が10倍になったりするのでもう笑いが止まらない。強力なインセンティブこそが猛禽類の生みの親だ。

 駐車場にポルシェが停まっていたら欲しいと思うし、あとは豪邸に大型犬にヨット。そして若くして引退。みんなそれをゴールに頑張っている。物質的ですごく単純。お前らちょっと簡単過ぎないか、それでよくそんなに頑張れるな、と思うほどだ。

──猛禽カルチャーのなかで生き残るにはどうしたらいいのか。

 自分なりのアピールポイントを見つけること。上司や同僚に何か頼まれて返事をするのも、自分から発信できる絶好の機会。それを逃さない。よくあるのは「これ何」ってメールで聞いたとき、即答はするけど内容がまったくピンボケというケース。これはすごく損。15分後でもいいからドンピシャの返事をくれたほうがポイントは高い。

 プロジェクトの進捗リポートでも、何%終わりました、とだけ書いてくる人もいるし、何%終わったけど、こういう懸案事項があるので後半に尾を引くかもしれない、と言ってくれる人のほうがいい。どういう問題が残っているかがわかるし、こちらも気に懸けておける。それが、前日に突然人手が足りませんと言われても間に合わない。

 そういう細かいアピールを積み上げていくと、だんだんこいつはあてになる、という話になる。この分野はあいつに聞け、と。何でもやろうとするとどれも中途半端になるから、自分だけの強みを作り、しっかりとアピールすることが大事だ。

──仕事さえできれば猛禽類は怖くないということか。

 いや、怖い。怖いけど、少なくとも利用価値があるとは思ってもらえる。利用価値がないと、こいつを切って空いたポジションに他の人間を引っ張ってこようと、そういう使われ方をしかねない。

──グーグル副社長からヤフーCEOに転身したマリッサ・メイヤーは、できる限り頭のいい人と一緒にいることが成功の条件の1つと考えて、ここまで出世した。

 シリコンバレーには、頭のいい人間がごろごろしている。一旗揚げようと思う人が世界中から集まる。野心的で自信のある人たちだ。3分の2が外国人で、IQも所得も全米屈指。アップルの本社があるクパティーノは7割が高学歴アジア人。グーグルやHPやアップルで働いている。皆、自分は頭がいいと思っていて、実際頭がいい。それがまた必死で働く。そして露骨に競争する。才能が集まりやすいこの土地で、企業はさらに才能を囲って互いに競争させているわけだ。

──頭が良くて驚いた例は。

 いくらでもある。夏のインターンで来た学生が、2カ月ぐらいの研修期間の間に顔認識プログラムを作ったり。20歳そこそこで、どれだけ頭いいんだという話。画期的ながんの治療法を見つけた高校生は、高校生なのにスタンフォードの大学院に通っている。息子の高校にも、募金を集めてケニアに学校を建てた子がいた。今は自ら設立したNGOの会長になってハーバード大学に行っている。

──頭がいいというだけではなさそうだ。

 行動力が伴っている。成績がいいというより何かをやる子。履歴書に書くためだけのボランティアではなく、世の中をちょっとでも変えてやろうと思っている子がいっぱいいる。高校のころからあれをやっていたらオーガナイズする力がつく。それで会社に入るのだから、最初から政治がうまいに決まっている。

 結局、自分にも何かできることがあるはずだというメンタリティが、アップルやグーグルに入っても「ちょっと凄いもの作ってやろう」という意欲につながっているんだと思う。金銭的インセンティブはその追い風だ。

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